終章 CANCER 5
「ですが、まだまだこの段階でも、ガンは大きくはなりません。成長しなければならないのです。これが次ぎのステップのプロモーションです。成長の促進です。少しずつ大きくなり始めたガンはようやく免疫機構の本格的な駆逐作戦と戦うことになります。体内でも最強の免疫四天王とルイとの戦いなのです」
この段階まで来ないと、大御所は動かないのか。だが、それは駆逐できる自身がるからであろう。もしくは、ここまでまたないと駆逐できないのかもしれない。各々の段階において、各々の免疫機構があるのだろう。
「四天王の最初の一人は、顆粒球を放出して敵を討つグラニュー。グラニューの攻撃では残念ながらルイは倒せなかった。本来であれば、四天王全員が一致団結して討伐に向かうのですが、このバランスが悪いと一人ずつ戦うことになるのです。次に出てきたのは、マクロファージの『ファージ』です。彼女は免疫の要です。ありとあらゆる体外生物やガン細胞などを膠原提示し、例えば、TAAなどというように識別記号のようなものをつけて駆逐するのですが、この識別を受けて、T細胞の『ティセル』と、B細胞の『ブラザ』が抗体を作りだし、総攻撃をかけるのです。本来であれば、この段階でガン細胞は駆逐されるはずでした。よほどの例外が無い限り」
すさまじい四天王のと戦い。生死をかけての一騎打ち。
「ですが、ここで、何かが起こります。何かは分かりませんが、もしかすると…トレランスかもしれません。免疫寛容、つまり免疫機構が一時ダウンする瞬間があるといわれています。そのトレランスが、たまたま戦いの最中で起こったとしたら、いくら四天王でも勝てません。
ですが、まだ希はありました。NKです。四天王の再後の砦にして、最強の戦士。ナチュラルキラーと呼ばれる由来は、全てのものをたちまち絶滅させる能力を持っているのです。その方法は、グランザイムというもので穴を開け、そこから、パーフォリンと呼ばれるセリンプロテアーゼという酵素を注入し破壊しつくすのです。
あ、ちょっと話が難しくなってしまいましたね、すみません。とにかく、再後の戦士NKの攻撃によってルイは死ぬはずだった。だが、ルイは生き延びた。ここは謎です。なぜ攻撃が効かなかったのか、どうやってNKを倒したのか。ただの偶然だったのかもしれません。
このように、多くの必然と、ほんの少しの偶然とが積み重なり、ガンは増殖していったのです。
そして、再後の段階がプログレッション、いよいよ増殖に入ります。もう手の付けようはありません。これが今の現状となります。お分かりになりますか?」
一気に話終えて、パンクレー医師は一息ついた。そして、再後の一枚の検査結果を見せてくれた。
「CAー19-9という数値が上がっていますね。これがマーカーです。全ては結果から想像したに過ぎませんが、治療の難しさも知って貰いたくお話しました」
全てがまだ現実と認識できていない。もしかすると、自分は宿主ではなく、ウイルスなのではないのかとさえ思う。天災なのか、人災なのかは、今となってはもうどうでもよい。ただ、現実が受け入れられずに、さ迷うしかなかった。
「では治療を始めましょう」
医師の話が終わり、数日が過ぎて、家族との話合いの結果、放射線治療で効果を試してみようということになった。というか、それ以外の方法といえば、死を待つという選択枝以外にないのだからしょうがない。
副作用によって体がボロボロになろうとも、生きる希を断ち切る勇気はなかった。