第六章 プログレッション (増殖) 9
「ついに終わったわね」
静まり返った暗い洞窟の奥を見つめながらジェネは朱里の手を取り、抱きかかえる。朱里はまだ立ち上がるだけの気力を持ち合わせてはいなかった。
「これできっと世界に平穏は戻るわ。これでよかったのよ」
ジェネは未来を見通せる能力を持っている。彼女が言うのだらか、本当であろう。
「本当の奇跡は起こらないものなのね」
ルイの帰りを信じて疑わなかった朱里には、重く辛い現実を受け止めるのに時間がかかるであろう。
だが、それを乗り越え、生きていく強さをもっている、それが朱里という女性なのだ。
「そんなことはないわ。十分、今まで奇跡だったじゃないの」
振り返るジェネは全てを飲み込み、見守る。
「もしかして……朱里、いや、そんなはずはないわね」
ジェネが何を言わんとしていたか、朱里には分からなかった。
朱里がルイの後を追うとでも考えたのだろうか。
「大丈夫よ、きっと大丈夫。時間がかかるかもしれなけど。彼の最後の言葉忘れないわ。そして、彼の分まで生きてみせる。この身が滅ぶまで、最後の最後まで」
朱里の意志と覚悟が、この世界を救う。
ジェネはそんな朱里を見守り、導く。
四天王が不在となったこの不安定な世界でも、きっと平穏を保てる何かがあるはずである。
その為に努力し、尽力し、まっすぐに生きていしかないのだ。
世界に起きていた異常気象は徐々になくなり、天変地異は起こらなくなった。
そして、今日もまた日は昇る。




