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第六章 プログレッション (増殖)   8

 朱里には朱里のしなければならない事がある。世の平和を維持するために尽力しなければならない使命にある。

 俺には、俺にしかできないことがある。

 たったそれだけの事なのだ。

 

「さようなら朱里。本当に楽しかった。ありがとう」

 それ以上の言葉はもう出て来ない。いくら伝えても伝えきれない。


「俺の分まで、幸せになってくれ」

 俺の後を追うような真似だけはしないで欲しい。彼女ならきっと強く生きて行ける。


「ルイ。これから先もずっと、私の心のなかであなたは生き続けるわ」

 初めて朱里を見た日、話した時、恋に落ちた瞬間、会いたかった日々、一緒に過ごした時間、一緒に愛し合った思い出、喧嘩した日々、寄り添いあった温かさ。全ての記憶が走馬灯の様に脳裏を巡る。

 そして、その一つ一つがかけがえのない宝石のように輝いていた。


「最後にひとつだけ教えてくれ」

 朱里との意思疎通は途絶えた。それは、封印の儀式の始まりを意味していた。


「俺が異人血を持つからオンコジーンが破滅へと向かったのか」

 未だにオンコジーンの謎は解けてはいない。いったい何のために開花し、何が目的で永遠に魂を存続させようとしているのだろうか。


「それは、恐らくじゃが、たまたまであろう。だが、異人血を持つお前でなければ、オンコジーンはもっとゆっくりと開花していたのかもしれぬな。そして、NKから受けたパーフォリンがその成長を著しく速めたのは事実じゃろう」

 ブレインは俺の頭に手を当てたまま答える。

 あの時、トレレンスが起こらなければ。あの時、偶然オンコジーンにパーフォリンが命中していなければ。幾重にも重なる偶然と、意志とによって生き延び、開花し、進化し、そして加速したのである。


「さあ、オンコジーンを」

 俺はブレインのもう片方の手にオンコジーンを渡した。

 ブレインは意味不明の言葉を唱え始めた。

 やがて意識が遠のく感覚へと導かれる。

 目を閉じ、瞼の向こうには、明るい光を感じた。

 これがオンコジーンの封印となるのであろう。

 残された朱里のことを思い、彼女が生きている世界が平和であることを希。

 愛する人のために、この身を捧げられることが、とても幸せな気持ちだった。

 永遠の命を、無限の力によって封印する。

 あらゆる変化を抑え込み、これ以上変化をさせないように。

 

 自ら望んだ奇跡であったが、それが結局、自身を滅ぼす結果になろうとは。

 運命とは、皮肉なものである。


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