第六章 プログレッション (増殖) 6
しばらく洞窟を進むと、前に扉が見えてきた。これがジェネの言う、試練の門『グリア』なのだろう。
高さ三メートルくらいはあるだろうか。大きな扉には鍵などついていない。アデノと二人で、片方ずつの扉を力いっぱい引っ張った。扉はゆっくりと開く。
「本当にいいのか?生きて戻れないかもしれないんだぞ」
アデノは、首を縦に振る。迷いなどはないようだ。俺にとっては心強いが、死を覚悟させなければならないのは心苦しい。
「行こう。神とやらに会いに」
アデノに促され、俺は『グリア』の中へと入った。
グリアとは、ネバネバしたジャムのような空間だった。スライムの中にいるような、そんな感じだ。
手足は自由に動かせるが、ジャムの抵抗が大きく、ゆっくりとしか動かせない。
何メートルか先には、光が見える。そこが出口なのだろう。
ジャムは口や鼻の中にも埋め尽くされ、息が全くできない。
急いで行かなければ、神と会うまでに息絶えてしまう。
必至にもがきながら『グリア』を前へ前へと進んだ。その後にアデノも続く。
あと少しで、出口の光が見えた所まで来たとき、俺体が止まった。
グサ
胸の中央に、剣が突き刺さっている。
背中からまっすぐに貫いて。
「アデノ……」
ジャムが口にも入ってきているので声に出すことはできない。
だが、肺に貯めていた最後の空気が漏れる。
振り返ると、アデノがもう一本の剣をこちらめがけて振り下ろすところだった。
ダン
俺は瞬時に『ナイン』の引き金を引いた。グリアの中でも、銃弾は発射でき、アデノを貫いた。
彼女は間もなく息絶えた。
「はぁ、はぁ。なぜだ」
やっとのことで『グリア』を脱出した。胸に刺さっている剣はそのままだ。抜けば致命傷となるだろう。
なぜ、アデノが俺を殺そうとしたのかまったく分からなかった。
そのために、俺に付いて来たとでもいうのか。
息が苦しい。いつもはオンコジーンのおかげで回復するが、ここでは回復する兆しがない。このまま死んでしまうのか。早く神に会わなければ。
光の方へと真っ直ぐに進む。
眩いばかりの光の奥に進むと、一人の老人が椅子に座っていた。
「よくぞ辿り着いたな」
話てはいない。脳の中に直接話しかけてくる感覚だった。
「お前がブレインか」
俺の声も、口に出さなくても会話できるようだ。
「如何にも。わしがこの世を治めしブレインじゃ」
頭の中に直接届く声が告げる。神など、本当に存在しているとは、この時まで信じていなかった。