第六章 プログレッション (増殖) 2
二時間かけて、朱里の家まで辿りついたころには、彼女はぐったりとしていた。だが命には別状はなさそうだ。
「あなたも撃たれたんでしょう?」
俺の服の胸の辺りに、パーフォリンによって出来た大きな穴が出来ていた。円形に服が焦げている。
「ああ。殺られたかと思ったけど、偶然、首から下げていたオンコジーンに当たったんだ。そして、奴の弾丸をオンコジーンが飲み込んだ」
NKとの戦いの最後、確かにパーフォリンは俺に命中したのだ。だが、運良くそれはオンコジーンに当たった。そして、その一瞬が運命を分けた。
NKは油断したのだ。パーフォリが命中するのを確認し、次に備えなかった。
全てを無に返す力を持つパーフォリンと、永遠の魂が宿るオンコジーンが衝突したのである。
結果は俺に生きろと語ったのだ。
オンコジーンを見ると、少し熱っぽくなっているのに気がついた。
以前と少し色合いも変わっているようだ。少し半透明になり、輝きを放っている。それはオンコジーンを合体させた時に見た光と同じものだった。
何か変化が起こっていることは確かだが、それが何なのかは分からない。
「でも、これで俺達の邪魔をするものは誰もいない。やっと本当の幸せが訪れるんだ」
傷ついた朱里を抱きしめ、朱里を医務室へと連れて行った。
その後、数日が過ぎ、俺達の周囲には平穏が訪れた。
栗夏もすっかり大人しくなり、街は活気を取り戻しつつあった。
異血を持つ俺が、朱里と一緒になることも、皆受け入れてくれ、一緒に幸せに暮らすことができるようになったのである。
だが、四天王が消えた影響は少しずつではあるが出始めていた。
突然の地震、異常気象、バッタの大量発生、海の魚の異常死、異常スモッグの発生。少しずつではあるが、何かが狂い始めていたのである。
俺達でさえも、単なる環境の異常だと思っていた。
だが、それらの天変地異が、四天王不在が原因で起こっていることを知っているのは、ジェネくらいであった。
そんな数日が過ぎたある日、俺を訪ねてくる者がいた。
「久しぶりだね、ルイ」
それはアデノだった。四天王が居なくなって、爺とのパイプが断たれたのだという。今まで爺へと命令していたのは、四天王だったのだ。つまり、俺は四天王の駒使いをしていたというわけだ。
「もう仕事もしなくて良くなったの。で、行くところがないんだけど、一緒に住んじゃダメ?」
爺は仕事がなくなり、隠居したらしい。アデノも、本来は殺しなど続けていたくはなかったのかもしれない。
「いいわよ!ルイの兄弟なら大歓迎だわ」
朱里は快く引き受けてくれた。血は繋がっていないことも承知し、一緒に暮らすことになった。
アデノに仕事も世話をしてくれて、毎日が楽しいものとなった。
「兄弟闘わなくて済んで良かったわね。本当はどっちが強いの?」
朱里が興味本位で聞いた。
「アデノの方が強いよ。質がいい。俺なんかより俊敏だし。闘ってたら負けてたな」
今となっては昔の話だ。もうお互いを傷つけあう道理などないのだから。