第六章 プログレッション (増殖) 1
カツ・カツ・カツ
「とうとう四天王まで倒してしまったのね」
ブーツのヒールを鳴らしながら現れたのはジェネだった。もともと彼女が仕掛けてきた戦いだったのだ。四天王をけし掛けることが彼女の目的であったのだが、俺が勝利するという形で幕が下りた。
「残念だけど、四天王不在のこの国はやがて滅ぶわ。ルイ、別にあなたが悪いわけではないの。ただ、そういう運命だったというだけだから。気に病まないでね。後は、短いけど余生を楽しんでね」
ジェネは悲しそうにこちらを見据えている。それは、監獄レバからの脱出の時に遠めで見えた彼女の表情と同じだった。
「ジェネ、お前はいったい何者なんだ。ただの金持ちの箱入り娘ではないんだろう?」
彼女には腑に落ちない点が多くあった。一番最初に出会った時も、夜中のヒッチハイクだったし、コソコソと家へ帰るのを手助けしろというし。
レバから俺が逃げるのを先回りして知っていたのにも気になる。そして今回の戦いだ。全てを知っていたとでもいうのであろうか。
「韻の一族には、昔から特殊な能力が宿ると言われているわ。代々受け継がれし能力。それは『千里眼』。遠くのものだけではなく、近未来も見ることが出来るの」
韻の一族が栄えて来た理由は、そこにあったのだ。未来が見える能力だと。
「ルイと初めて出逢った頃は、まだ能力が完全ではなくて、不安定だったの。そのせいで、家出したりしたわ。あたなに頼めば連れて帰ってくれるって見えたから、頼んだのよ」
懐かしく語るジェネの目には涙が浮かんでいた。
「でも、あなたに上げた鉄片が、まさかオンコジーンといわれるものだったのなんて。私にも責任があるわね」
すべての始まりは、彼女から受け取ったオンコジーンだったのかもしれない。オンコジーンは引き合い、そして選ばれしものの能力を開花させ、不死鳥へと導く。
「終わったのね」
朱里が傷を抑えながら、肩で息をし、なんとかこちらへと歩いて来た。
「ジェネ、あなたが黒幕なの?」
朱里には全て話ていたし、彼女はジェネとの面識もあった。お互いセレブなお嬢様として似たような境遇で育ってきたのだ。
「私の役目は、この国を守ること。でも、出来なかったわ。オンコジーンを集める段階で止めるべきだった。でも私の予知は完璧に見えるわけではないの。致し方ないわ」
もう全てが終わってしまったと、ジェネは告げる。その意味する事は分からなかったが、もう俺たちを狙ってくる刺客はいないということでもあろう。
「これで、やっと自由になれるんだな」
俺は朱里の肩を抱き、ジェネに別れを告げた。
近くに置いてあった車を拝借し、朱里の家へと戻る。
激しい戦いだったが、またも偶然に助けられ生き延びた。
そして奇跡は続く。