第五章 プロモーション (促進) 12
盾の『ヴィエ』はボロボロになりながらも、朱里を守り続けた。あと数分、いやあと数秒遅ければ、彼女は八つ裂きにされていたであろう。
「危なかったわ。倒したのね。四天王は、あと二人ね」
朱里の手足にも手裏剣による傷が痛々しく残っている。
「いや、今三人倒してきたから、あとはNKというの奴だけだと思う。一匹狼みたいだから、ここにいるのかどうか分からないが」
もう少しでやられるところだったが、奇跡は続く。
「ファージが死ぬ前に、トレランスっていっていたんだけど、知ってる?」
地震ではない、何か。異常気象なのだろうか。
「聞いたことあるわ。大昔に何度か起こっているって。空間が歪んで磁場が発生するって聞いたような気がするわ。特殊な能力も、そのせいで使えなくなったのかもしれないわね」
何十年に一度起こるといわれているトレランス。それがたった今起こっているのだ。数分で終わるかもしれないし、数時間続くかもしれないという。
「四天王はもしかすると、何か特殊な力を持っている集団だったのかもしれないわね」
その強靭な力で世界を支配してきたのだろう。だが、その力さえもトレランスの中では無と化したのだ。
「さあ、帰ろう。治療が先決だ」
俺は朱里の肩を担ぎ、車へと戻ろうと歩き出した。途中、四天王の三人の屍の横を通り過ぎようとした時、突然真っ黒いマントの男が現れた。一瞬で空気が凍りつく。とてつもない殺気を放っている。
「運の悪いやつらだな。それともお前が幸運なだけなのか」
身長は高く体格は良いが、そこに突然現れた俊敏さは、ファージのものと同じだ。
「俺はお前と同じ、ただの殺し屋だ。だた、違うのは、世界最強ということだけだ」
これがNKだ。間違いない。四天王の再後の一人、再後の刺客。奴さえ倒せば、本当の自由が手に入る。
「俺にはトレランスは無用だ。さあ、かかって来い。お前が何者であろうとも、切るだけだ」
NKの気迫はすさまじい。世界最強の殺し屋。
「朱里は逃げるんだ。約束だろ。俺は奴を倒す」
車まではもう少し。俺は朱里を背中に隠すように少しずつ移動し、ファージの持っていた剣を拾い上げた。
「分かったわ。きをつけてね。生きて帰って。それが約束よ」
朱里は車まで走り、乗り込んだ。これで何も気にせず戦う事が出来る。
「逃がすか。G2D」
NKは、ブーメランのようなものを投げた。『G2D』という名前なのだろう。孤を描き、車の窓ガラスを突き破って朱里のいる運転席へと直撃した。車は方向性を失い、近くの電柱へとぶつかって止まった。
攻撃の正確さ、殺傷能力、共に一流の殺し屋に違いない。
「朱里!」
ブーメランを止めることが出来ず、攻撃を許した自分の不甲斐なさが悔しかった。
衝突した車のドアを自力で開け、出てくる彼女の姿が確認できた。何とか一命は取り留めたようだ。だが重症には違いない。すぐにでも手当てしないと。
「相手は俺だ!」
怒りと、恐怖とが入り混じり、力が入る。
ファージの持っていた剣を投げつけ、同時に、『ナイン』でNKを狙った。
だが、俺の攻撃は全て読まれているかのように、素早く避けられてしまった。
爆弾の類の手持ちもなく、残っている銃弾もわずかだ。
長引くと不利になる。
やはり、接近戦で撃ち抜くしか方法はなさそうだ。