第五章 プロモーション (促進) 9
朱里の父に教えてもらった地図に従い、スプリンの町に着いた後、町の中央にある教会を訪ねた。
そこには牧師さんがおり、教会の地下へと案内された。
地下は最新の電子機器で埋め尽くされた大きな施設となっており、まさにこの国を牛耳るに相応しい機器が揃っている。田舎町の地下の意外な光景に驚かされたが、通された応接室はこじんまりとした殺風景な一室だった。
「まさか、こんな施設があるなんて」
朱里の驚きも無理はない。影の組織が存在する。だが、その存在を知る者は誰もいないのである。
「油断するな。いつ襲ってくるかわからない」
敵陣の中に飛び込んで来たのだ。いくら武装してようとも、簡単に捕らえられるであろう。それを承知でここまで来たのだ。俺は『ナイン』の引き金を引いて待ち構えた。
十五分くらい待たされただろうか。
「ううっ……」
突然、朱里のうめき声が上がった。
苦しそうに前のめりになり、胸のあたりを押さえている。
「どうしたんだ。何かされたのか」
まだ応接室には誰も入ってきていない。人の気配もない。いったい何が起こっているというのか。
「ソファの後ろから、突然針みたいなものが飛び出して来て、痛いと思った瞬間、胸が熱くなったの」
彼女の背中には、確かに針穴が空いている。だが、出血などはない。ひとまず命に別状はなさそうだ。
ガチャ
「おまたせしたわね」
長いコートを着た女性が姿を現した。四天王は女性が多いのか。
「いったい彼女に何をした!」
俺は銃口を四天王の一人に向けた。
「そちらの彼女の細胞を少し頂いたわ」
そういって彼女は、どっしりとソファーに座って、煙草に火を点けた。
脇には大きな刀を刺している。この御時世に大刀を振り回すというのだろうか。
「私は四天王の一人、ファージよ。オンコジーンを開花させた方にお会いできるなんて光栄だわ」
彼女の武器は、刀以外にはなさそうだ。
「なぜ彼女の細胞など必要なんだ。目当ては俺じゃないのか」
俺は銃口をファージの方へ向け、引き金に指をかけ威嚇する。だが、ファージは微動だにしない。打てるものなら打ってみろと言わんばかりの余裕だ。この国を支配する四天王の一人、何があるか分からない。
「ただ死んでもつまらないでしょ? 余興よ。ついでに教えてといてあげるわ」
ファージの説明によれば、残りの四天王は、ファージの他、双子の兄弟、NKと呼ばれる謎の人物とがいるという。NKは我がままで、一人で行動するので、今回の話し合いには来ないという。
この国の方針は、双子の一人のティセルが頭脳となり決定しているという。彼の判断は常に正しい。そして双子のもう一人は、この国の守護神として祀られしブラザ。神頼みの大体は彼が引き受けているという。
これが四天王の全貌だった。
「あんたの役割は?」
まだ攻撃を仕掛けてくるようなそぶりはない。ゆっくり楽しんでいるといった感じだ。
「私? 私は、そうね。ジョーカーかな。オールマイティーね!フフフ」
そう言って不適な笑みを浮かべる。