第五章 プロモーション (促進) 8
三日三晩眠っていたそうだ。その頃にはすっかり体力も回復しているのに驚いた。通常であれば全治六ヶ月は下らない。だが、回復力が以前とは比べ物にならないくらい向上している。これがオンコジーンの奇跡の力なのだろう。
「もう無茶はしないでね」
朱里のやさしい声が心に響く。そう、彼女を守るためにも、そして自由になるためにも戦わねばならない。
栗夏はグラニュウを倒した俺に恐れをなし、無理な統治はしないと約束したという。民意を聞き入れると誓いを立て、朱里の意見を受け入れると。つまり、こちらの力による支配に屈したのだ。結局は強いものが支配する世界。その縮図は変わらない。
「父が、四天王とかいう人とコンタクトを取って、ルイに会いたいって言っているそうよ。話し合いがしたいそうだから、今度は争いにならなくて済むかもしれないわ」
朱里の心配そうな面持ちは変わらないが、少しの希望に託す気持ちが伝わってくる。
「それに、今度は何人で来てもいいっていっているし、武器を持ってきてもいいって」
余裕なのか、それとも本当に話し合いでの決着をしようとしているのか。とにかく行ってみないことには真意は分からない。
「よし、行こう。でも他の人たちに迷惑をかけるわけにはいかない。だから、今回も俺一人で行く。武器さえあれば大丈夫だし」
前回の戦いを教訓に、『ナイン』以外にも、盾を作っていた。
「ダメよ。絶対ダメ。話し合いをしたいって言っているのよ。平和的和解があるかもしれないわ。私も参ります。四天王とまで呼ばれている人ですもの、嘘をつくわけがないわ」
朱里の意思は固かった。俺が一人で死ぬのを許さないのであろう。死ぬ時も一緒、そんな気迫が伝わってくる。
「分かった。では二人で行こう。相手が攻撃してくるまではこちらも手を出さない。それでいいね」
朱里は頷き、ありったけの武器を用意して、四天王の下へと向かった。
四天王が待つのは、スプリンという地名の場所だった。朱里らの住むベタからは車で二時間ほどの距離にあり、
ただの田舎町である。そこに世界を裏から牛耳る四天王がいるのだ。
「グラニュウは尋常ならない攻撃をしてくる敵だった。次もきっと常識では考えられない攻撃をしてくるかもしれない。その時は、何があっても逃げるんだ」
朱里との三年の幸せな時間はかけがえのないものだった。それが終わろうとしている。強靱な力によって。
奇跡を手に入れた俺たちに取って、どんな障害でも乗り越えられるはずなのだが、何故か破滅の予感がする。
「分かってるわ。ルイの気持ちも。平和的解決が望めないと分かれば、私はすぐに退散するわ」
朱里には、俺の身に起きたような変化は見られなかった。体力の回復も、技術的な亢進もない。つまり、オンコジーンの奇跡を享受できたのは俺だけだったのだ。
「やつらの狙いは、多分俺一人だろう。異血とやらを持つ俺の命が狙いなんだろう」
もちろん、オンコジーンも持ってきている。紐を付けて、首からぶら下げるようにし、胸の中へしまっておいてあった。
「奇跡。もう一度起こるといいな」
前回、処刑場での地震のような、天変地異が見方してくれるのであれば、俺にも勝機はある。