第五章 プロモーション (促進) 5
栗夏の城へと足を踏み入れるのは初めての事だった。朱里の描いてくれた見取り図は完全に頭に入れ、武器は持って入れないだろうということで、予めミイフに頼んで、城の中へと持ち込み隠してておいた。
「羽衣が来たと、栗夏に伝えてくれ」
門番に要件を言い、すぐに中へと通された。案の定、武器などの一切の所持品は一時預かるのが規定だという。
そして、栗夏の待つ部屋へと案内された。
「よく来たな。頭の悪い奴だ。わざわざ殺されに来るとはな」
栗夏は大きな部屋の真ん中あたりにある大きな椅子に座っている。その側近には栗夏の世話係らしい女が両サイドに一人ずつ立っていた。
「朱里は返してもらう。あれは俺の女だ。必ず俺の言う事を聞かせてやる」
以前の栗夏の面持ちではない。悪の化身が如く、吐きすれる言葉までもがおぞましい。
この三年間、彼に権力を持たせたがために、彼自身をも変えてしまったのだろう。
「無益な争いは避けたいのだが、仕方がない。この前の礼もしないといけないしな」
栗夏の直接会うのは、これで三度目になる。一度目は結婚式のパレードで奴を殴り、二度目は処刑場でリンチにされ、そしてこれが再後の戦いとなるであろう。
「ははは。どうやら奇跡とやらを手に入れていい気になっているようだな。だが、それも今日までだ。お前らを自由にさせておいたのは誰のお陰だと思っている」
今まで、警察や軍隊などから一切の干渉を受けてこなかったのは、栗夏の指示があってのことだったと言う。
「おしゃべりはそのくらいにしておけ、栗夏。お前がもう少し利口であれば、私の仕事も楽になるのだが」
栗夏の右方にいた女性が、口を開いた。
栗夏は緊張した面持ちで口を噤む。
「巻き添えにならないように、引っ込んでな」
そう言うと彼女は拳銃のようなものを構えた。銃口は拳銃のものよりも随分大きい。
「お前は何者だ。裏の組織の人間か?」
栗夏に対する言動からすると、栗夏を操る陰の存在といったところだろう。とすると、爺の所属する組織に繋がる可能性もある。
「私は特攻隊長の紅羅丹生よ。すぐに殺されるあなたには関係ないけどね。絵卑の娘が余計なことばかりするもんだから、私ばかりが苦労するはめになるのよ。まったく」
いつの間にか、グラニュウ以外の人は部屋から非難しており、彼女と一騎打ちとなった。
が、こちらは丸腰で、彼女は拳銃のようなものを持っている。
正々堂々と戦う気などは鼻からなく、ただの処刑に過ぎないのであろう。
境遇が過酷になるよど、血が騒ぐ。彼女の攻撃をかわし、勝つためにはどうすればよいのか。
瞬時に判断し、一瞬の迷いは命取りとなろう。
「死ね」
グラニュウは拳銃の引き金を引いた。