第五章 プロモーション (促進) 3
「何でもお見通しなんだな」
拳銃を構えたままジェネを威嚇する。本気で俺たちを始末しにきたという事は間違いない。
「これは忠告よ。この国の全ての戦力を結集してでも、あなたを倒すわ」
ジェネの眼もまた本気だった。それが彼女の使命でもあるかのように。
「誰にも迷惑をかけていないつもりだったが。何故そこまでして俺たちを狙う」
オンコジーンは、それほどまでに脅威だというのか。誰にもしられていない伝説などではないのだろうか。
「今のうちにあなたたちを駆逐しておかないと、取り返しがつかないことになるからよ」
ジェネは再び車へともどった。今度は運転席の方へ。そして車をバックさせ、ユーターンさせて立ち去った。
まるで俺が引き金を引かないのを知っていたかのように。
そこに残された生き残りの兵士達も、各々車などに乗り合わせ立ち去っていく。
戦いが終わったことを察して、朱里がこちらへと向かって来ていた。
「始まったわね」
彼女もまた、この襲撃が始まりだと感じていた。
残された兵士たちの手当てを二人でし、彼等はそのまま放置した。すぐに迎えがくるであろう。
俺たちは、今後の見の振り方を考えなければならなかった。
以前のように、もう逃げ回るのはゴメンだ。
正々堂々と、戦う。だが、無駄な血は流したくない。話し合いで済むものならそうしたい。
できれば今までのようにそっとして置いて欲しかった。
野良仕事で汗を流し、朱里との二人の時間をゆっくりと過ごしていたかった。
オンコジーンの奇跡は、望むものが手に入るということではないというのだろうか。
野望や、欲などはない。
ただ、幸せが欲しいだけなのだ。
その反面、少し期待している面もあった。
殺し屋の血が騒ぐといったところだろうか。
強い相手に、自分の力を試してみたい。誇示したいという衝動があるのも事実だ。
現に、リコを倒した満足感はとてもここちよいものだった。
この二つの相反する感情が俺のなかに渦巻き、やがて自制出来ない所まで行くというのだろうか。
「朱里、もし俺が暴走したら、その時は俺を殺してくれ。そして、オンコジーンも破壊するんだ」
彼女は何も言わず、ただ、抱きしめてくれた。
彼女の存在がすべてだった。決して彼女を不幸にはしない。
そう、強く願った。
家が破壊され、住む場所がなくなったので、とりあえず、朱里の実家へと向かうことにした。
朱里の別荘から、朱里の本住んでいたビルまではすぐの距離にあり、朱里は時々両親と過ごすために帰ったりもしていたので、交流があった。
彼女の両親も協力的で、朱里の願いは大概聞いてくれた。
お金の援助もしてくれ、よき相談相手でもあった。
「当面はここで暮らしてOKよ」
朱里の説得で、彼女の住んでいたビルの最上階に居候することになった。