第四章 イニシエーション(開花) 8
そして、ついに運命の日が訪れた。
監獄レバの中の処刑場には、大勢の人々が群れをなし、全国民へと生中継がされる予定であった。
そのため、警察や軍隊などが総動員され、今か今かとその瞬間を待っている。
国家一級の犯罪者だとしても、ここまで大掛かりな公開処刑は初めての事だった。
観客とは別の所に、特別席が設けられ、そこに栗夏と、私が座る席が用意されていた。
「この間はすみませんでした。どうもお酒に酔い、眠ってしまったようで」
あの後、彼と顔を合せていなかったので、彼の面持ちが以前とは違ったものになっていることに気がついた。
もじもじしている彼が可笑しかった。
「あの、その。続きは今夜にでもどうでしょう」
栗夏の顔が少し赤らんでいる。以前の堂々たる彼からは想像も出来ない醜態だ。
それほどまでに、あのネグリジェが効果的面だったのかと思うと、恥ずかしい思いでいっぱいだった。
あの時は、ただ無我夢中だったので、羞恥心などはどこかへ追いやってしまっていたのだ。
「ええ。待っていて下さいね」
作り笑顔を返すのと、笑いをこらえるのとで、顔が引きつっていないか心配だったが、栗夏には伝わっていないようだ。
期待に胸膨らませる栗夏を横目に、ルイとの面接の時間を待った。
公開処刑は正午きっかりに行われる予定で、その三十分前に、控え室での再後の面会を許されていた。
面会の時間は五分。もちろん、栗夏も同行するという条件付であったが、問題はない。
栗夏以外にも、警備の人間が控え室の周りを厳重に警備していることであろう。
そこから逃げ出すことなど出来ない。
この状況下で、オンコジーンはいったいどんな奇跡を見せてくれるというのだろう。
自信や根拠などはなかったが、もう、委ねるしか道はなかった。
「さあ、そろそろ参りましょうか。罪人の再後の言葉を聞きに」
意気揚々と栗夏は立ち上がり、私の手を引っ張って、ルイの待つ控え室へと案内してくれた。
私は、もう片方の手でしっかりと腰のベルトを握り締め、失敗したら死ぬ覚悟をして彼の後に続いた。
「こちらです」
栗夏のエスコートで、ついにルイのいる部屋へと着いた。
頑丈な扉を、門番が二人掛かりで開けるのをじっと待った。
「………」
ひと月ぶりに見るルイの姿は、以前とはまったく別人のようだった。
殴れ続けられたようで、顔は形を変え、片方の目はもう開く事が出来ないかのようにふさがっている。
体は痩せ細り、囚人服の下は、傷だらけなのが見て取れた。
椅子に両手両足を縛られており、この様子だと、一人で歩く事は困難に思えるほど衰弱しきっていた。
「しゅ…り…」
声にもならない声。今にも消えてしまいそうな彼の声を久し振りに聞いた。
思わず、涙が溢れてこらえきれない。
すぐにも飛び出して、彼を抱きしめたかったが、ぐっとこらえた。
処刑が決まっているにも係わらず、何の権利があってここまで彼を痛めつけなければならなかったのだろうか。
自分の握り拳に力が入り、爪が手のひらに食い込み、血が滲む。