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第四章 イニシエーション(開花)  5

明くる日の夕食後、ラウンジへと招かれ、そこには彼一人が座っていた。だが、お酒を作るバーテンもいる。

 アデポネの話だと、女性には強いお酒を出し、栗夏はほんの少しの量のお酒をウーロン茶で割ったものを飲んで、女性を酔わせるのがいつもの手だという。

 

「カクテルを下さる」

 私自身はお酒は弱いほうではないが、今日ばかりは酔うわけにはいかない。カクテルであれば、何杯かいけそうだった。

 夜景の綺麗なラウンジで、少し薄暗い照明が二人の時間を演出する。


「初めてですね、あなたとこうしてお話をするのは」

 栗夏はあくまで紳士的態度は崩さない。女性を口説くことに長けているのであろう。


「あなたのことをよく知りたくて」

 来週には結婚する。そして、この男の妻とならねばならない。本来であれば、この男と一生添え遂げる覚悟をしなければならないのだ。


「それは光栄です。あなたの夫として、あなたを一生幸せにするとこを約束します。一族と、この国の将来のためにも。今夜は飲み明かしましょう」

 栗夏は上機嫌だった。ひとまず、彼に接近するという課題はクリアした。

 それから何杯かカクテルを飲み、時間が進む。

 栗夏も赤ら顔になってきたのが分かった。

 

「このカクテルおいしい!栗夏さまも飲んでみて」

 私の差し出したカクテルを断る分けにはいかない栗夏は、一気に飲み干した。

 プライドの塊のような彼は、決して弱みは見せないのである。


 だが、この一杯が効いたようだ。見る見る蛸のように真っ赤になり、少し呂律も回らなくなり始めている。

 私も大分酔っていたが、まだ正気は保っていられる。


「あなたの寝室へ行きません?ここではなんですから」

 あくまで酔った振りをして、栗夏を誘惑する。彼はすぐその気になって、案内してくれた。

 寝室には大きなベットに、四人がけくらいのソファー、大きな窓の外にはベランダがあり、シャワー室と洗面所、トイレなどが設置されていた。


「シャワーを浴びてきます」

 栗夏は、そのままベットへと横たわっていた。

 早々にシャワーを浴び、栗夏が好きという香水を少しだけつけ、もって来たネグリジェに着替えた。

 胸元が少し開いたネグリジェ。こんな服装で男性の前に出るなんて、考えられなかった。下着こそ見えないが、とても人前に出る格好ではない。お酒が入っていたせいもあり、少し大胆になれてはいたが、全てはルイのためと、心に言い聞かせて恥ずかしい思いを力ずくで封じ込めた。


「ねえ、栗夏さま。あそこの宝石、ひとつ私にくださらない」

 香水の匂いが、栗夏に届く距離まで接近し、横たわっている彼の体に触れた。ここまではアデポネとの打合どおりの展開だ。

 

ガバッ

 突然、栗夏の力強い腕に抱きしめられ、息が止まる。彼は酔っていたので、条件反射のようなものだったのだろう。なんとか這い出て、宝石の棚へと向かい、宝石を眺める振りをした。

 突然の出来事に、心臓がバクバクしている。危うくキスされそうになったが、寸前で回避できてよかった。


「宝石棚の鍵がこちらの引き出しに入ってる。好きにしていい」

 宝石棚の鍵の在り処が分からない。これが唯一の難関だった。これさえ手に入れば、栗夏には用済みだ。

 早速、鍵を取り出し、棚を開けた。大小さまざまな宝石に眼がくらむ。

 その中に、確かにあった。

 最後のオンコジーン。

 三角形の輝く板が。

 これできっと奇跡が起こせる。


「ありがとう、栗夏ちゃん」

 その頃、栗夏はもう夢の中だった。最後に栗夏に渡したカクテルには、睡眠薬を少し入れておいた。薬が効き始めるのに約一時間。計画は無事成功した。

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