第四章 イニシエーション(開花) 3
アデポネは三角の板を見つめながら記憶を辿っている様だった。
「これ、栗夏の所で見た事があります!」
彼女の話によれば、栗夏は宝石などを集めるのが趣味で、いろいろな宝石を宝石棚に飾ってあるということだった。その棚は、栗夏専用の寝室にあるという。
「以前、宝石を一つもらったことがあるんですが、その時に、同じ棚に並んでいたような気がします。宝石ばかりなのに、なんでこんな板がって思ったので記憶に残っていました」
アデポネの話には信憑性があった。確かに、宝石にはとても見えない。残る一枚は金属質の板のはずである。
金目のものとでも思ったのだろうか。
「よりによって、寝室かぁ……」
他の場所ならなんとかなりそうだが、栗夏の寝室となれば、どうしても彼に近づかなければならない。
想像しただけでも吐き気がしてきた。
だが、それも仕方ない。
もし、本当に再後のオンコジーンがあるのであれば、きっと何かが起こるはず。
奇跡という名の何かが。
一里の希ではあるが、賭けて見るしかない。
「アデポネ。彼のこと、何でも教えて。弱点とか、何でもいいわ」
栗夏はスポーツも万能で、体力系ということだった。
だが、酒には強くなく、酔って記憶をなくすことは茶飯事だという。しかも、酔っている時は女に弱くなるという癖があるのだと。だから、なかなか自分からは酒を飲むことはしないということだった。
そのほかにも、栗夏は女性のネグリジェに興奮するとか。好む匂いとか。
栗夏に接近するには十分の情報を元に、彼の所へと向かう決心をした。
まずは日程を調節する。もし、オンコジーンが見つからなかったことも考えて、少し余裕を持って会いに行くことにした。結婚式の一週間前、二泊三日の滞在を希望し、これを栗夏は快く受け入れた。
「さあ、言ってくるわ。無事を祈っていてね」
アデポネに別れを告げ、単身栗夏の下へと向かった。
本当はアデポネにもついて行って欲しかったが、栗夏にされたことを思うと、とても連れては行けなかった。
オンコジーンは引き合うと、仙人は言っていた。
見えない力が背中を押してくれているような気がしていた。
栗夏と結婚するなんて真っ平だ。あんな最低な奴と一緒になるぐらいなら、死んだほうがましである。
もう、自分の人生は自分で決める覚悟は出来た。
誰にも邪魔されないし、誰の指図も受けない。
そう、それが幸せになる為の条件なのだと、やっと気がついたのだ。