第四章 イニシエーション(開花) 2
それからは慌ただしく結婚式の準備が始められた。
結婚式は、以前と同じく教会で挙げることになっていたが、唯一つ違ったのは、結婚式の直前に刑務所レバでの公開処刑を見物してから式へ行くというスケジュールが追加されたことだった。
私を誘拐した犯人を、私がとても憎んでいるので、その腹いせにという筋書きだった。
私の気持ちなど栗夏は一切聞こうとはしない。
それどころか、ただ意見を押し付けてくるだけなのだ。
韻の一族を吸収することで、全てを手に入れたと錯覚している節があった。
栗夏とは何度か接見し、結婚式の打ち合わせを行ったが、二人きりになることはなるべく避けた。
栗夏も結婚式が終われば私を自由にできると思っていたらしく、特に接近もしてこなかった。
むしろ、結婚式よりも公開処刑の方に関心が大きいらしく、そちらの準備に忙しいようだ。
「ああ。どうしよう。このままだとルイは殺されてしまう」
公開処刑まであと二週間と迫っていたが、これまで特に収穫らしいものもなく、ルイの処刑を止められそうにはなかった。そればかりか、ルイに面会することすらできなかった。
国家一級の犯罪者。それは何人たりとも寄せつけてはいけないという法律なのである。
もちろん、弁護士や神父などの接見すら許されていないのだ。
「あと二週間、まだ出来ることはあるかもしれないわ」
私の気持ちを心からわかってくれるのは、看護師のアデポネだけだった。
いつも励ましてくれて、応援してくれていた。彼女がいたからこそ、挫けないで栗夏との対話に応じることができるのだった。
「でも、もうどうしたらいいのか」
八方塞がりだった。思いつくままに、あれこれ可能性を試してみたし、あらゆるコネを使ってルイの処刑を阻止しようと動いてみたけれど、栗夏の影響力は強く、誰も親身になってくれない。
「いざとなったら、私が栗夏を訴えるわ」
アデポネは力強く言ってくれたが、そんなことをしたら即刻消されるだけである。
何もいい案が浮かばないまま焦っていた。
「……あとは、奇跡を祈るしかないわね」
溜息まじりにアデポネは肩を落とした。
最後は神頼み。どうしようもない事実を受け入れることができない時、頼るのが神なのだ。神様も厄介な役を引き受けたものだ。
「キセキ。奇跡ね!あるわ、アデポネ!奇跡が起こせるかもしれない」
体中に電撃が走った。指先まで痺れる感覚。今まで神頼みなど、迷信に他ならないと高をくくっていた。
だが、もし。もし、迷信が真実であれば、奇跡は起こせるのかもしれない。
そう、オンコジーンの伝説を花開かせることができるのであれば、一里の望となる。
私はアデポネにオンコジーンを見せ、山奥で仙人に聞いた話を聞かせた。そして、奇跡が起こることを。
彼女はじっとオンコジーンを見つめて、考え込んでいる。
「私……、この板に見覚えがあるわ」