第一章 シグナル(刺激) 4
それから幾日が過ぎ、俺はいつもの平穏な日常へと戻り、骨董屋の店番をしていた。
店番は嫌いではない。客はほとんど来ないので、その間は色々な本を読むことが出来たし、たまに来る客は、俺よりも、ものすごく骨董品に詳しいので、いろいろと教えてもらえる。
突然、店の電話が鳴った。
店の電話が鳴ることはほとんどないので、電話をかけてくる相手はいつも決まっている。
「ルイ、仕事じゃ」
殺しの仕事はいつも爺からの情報だ。爺の情報はどこから収集するのかわからないが、誰も知りえない裏情報が満載だ。そして信頼性がとても高い。
仕事の資料は、いつも骨董屋のレジ下にある金庫に入っている。
俺は、それを取り出して自宅へと持ち帰り、仕事にかかる。
いつもの仕事であれば、一晩で遂行し、終了するはずである。
爺の資料では、いつも事細かにスケジュールが示されており、暗殺するタイミングまで指示がある。
だが、今回の仕事はいつものとは違った。
いつもは、人目を避けた場所で、遠方からの射撃が多い。
その後、他のだれかが遺体を始末することもある。
俺の仕事は暗殺のみだ。
しかし、今回の司令は、『自殺に見せかけて殺す』だった。
いつも詳しい指示があるのに、今回は何の指示もない。
何かおかしい。
爺らしくない指示の仕方であるし、情報が薄過ぎる。
暗殺理由は、『罪のない人々を奴隷にし、殺人を快楽として、人体実験などを行っている』とだけ書かれている。
仕事は自分で選ぶ。それが俺の主義だ。
俺がやらなければ、きっと他のだれかが殺るのであろう。だから、自分で殺す相手くらいは、自分で選ぶ。
「確かに、ひどいやつだな」
情報から読み取れるのは、極悪非道の殺人者ということだけだった。
情報の最後に、顔写真と姿写真が入っていた。
それは、とても綺麗で純粋そうな女性だった。
すらっと伸びた細い顎、鼻先はすっと伸び、あきらかに美人だ。背中まで伸びるしなやかな黒髪、誰もが振り返る要素が満載である。
資料によれば、年齢十九歳の短大生。身長155センチ。体重43Kg。視力は両方2.0。
顔や外見にだまされはいけない。
悪事は、仮面の裏側にあるのである。
両親は、日本一の大金持ちと噂される、韻一族だという。
確かに、何かよくない事がありそうだと思うのは、固定観念なのかもしれない。
俺は、真実が知りたくなった。
この爺の資料に、嘘はないであろう。今まで嘘であったことは一度もない。
だが、この写真の女性が、資料の中に書かれているような事が出来るのかどうか、疑問でならなかった。
いつもとは違う資料のいい加減さ。
やはり腑に落ちない。
「爺、引き受けた」
電話で返答をしたが、まだ仕事には取り掛からない。
そう、まずは真実を自分の目で確認する。