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第三章 オンコジーン(変異)  10

こうして俺は捕まった。無駄な血を流さなくて済んだが、結局朱里を守りきることができなかった。

 サイモシンに手錠を掛けられ、ヘリコプターへと乗せられ、連行される。行き先は刑務所であろう。


「彼女はどうなる」

 俺の行く末などはどうでもよかった。気になるのは朱里の進退である。メディアによれば、彼女は全くの被害者ということになっていた。


「ああ。おそらく栗夏様とご結婚されて、幸せになられる」

 サイモシンをはじめ、彼等護衛部隊が国家の安全を守っているのである。

 そして、誰も栗夏がひどい男であることを口にはせず、朱里が幸せになるものと信じている。

 

「そして、お前はたぶん、死刑台へと送られるだろうな。国家一級の犯罪者だからな。栗夏様が全てを仕切っており、誰も異論はないからな」

 栗夏は俺に殴られたことを根に持っているのかもしれない。

 それとも、花嫁を奪われた屈辱が、奴のプライドを傷つけた仕返しだろうか。

 どちらにせよ、相手が悪い。

 公平な判断が出来る相手ではない。

 奴が死刑といえば、死刑となるのだ。


 ヘリコプターの着いた先は、脱走不可能で有名な、凶悪犯の収容される刑務所『レバ』だった。

 レバは島になっており、朱里等が住んでいるランデルの海岸から見える位置にあった。

 

 レバに着くと、いきなり拷問室へと連れて行かれ、殴る蹴るの暴行を受けた。目的は、朱里を誘拐した動機を吐かせるというものだった。

 俺は正直に、栗夏の悪行を並べたが、相手にされず、意識がなくなるまで続けられた。

 足の傷もそのままで、ろくに動かない。

 手錠に足枷が重く、呼吸しているのがやっとの状態だった。


「おい、犯罪者。眼が覚めたか」

 水を被せられ、うっすらと目を開けると、そこには栗夏が来ていた。

 暴行されて口の中には血が溢れており、話すことも出来なかった。


「いいか、よく聞け。お前に朱里は渡さない。朱里は俺のものだ。あんないい女はそうそういないからな。俺の好きにする。彼女もそれを望んでいる」

 栗夏はこれでもかと見下し、優越感に浸っている。

 床に横たわりながらも、栗夏を睨み付けるくらいしか、今の俺には出来なかった。


「そして、お前は死刑だ。それも屈辱的に、公開処刑にしてやることにした。ありがたく思え。しかも、朱里の目の前で殺してやる。ざまあ見ろだ」

 やはり大分性格が歪んでいる。こんな奴に朱里をいいようにされるのかと思うと、腹立たしくて憎かった。

 

「今から一ヵ月後に、俺様と朱里との結婚式をやることにしたからな、お前の処刑の日もその日にしてやる。精々一ヶ月の間、もがき苦しむがいい。毎日集団リンチのメニューを加えておいてやったからありがたく思え」

 今回の暴行も、おそらく栗夏の指示だったのであろう。

 どこまでも卑劣な奴だ。

 

「処刑台に立つまで、死ぬんじゃないぞ。はははは……」

 声高らかに部屋を出て行く栗夏を見送り、俺は現実を受け入れるしかなかった。

 死ぬ前に、もう一度朱里に会える。そう思えるだけで、一ヶ月の間、生き永らえる意欲が出てきた。


 そして、牢獄での、集団での暴行が日課の毎日が始まった。

 ひと月後、死刑執行のその日まで。


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