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第三章 オンコジーン(変異)  8

 オンコジーンはある一定の波長の光を受けると、中に文字が浮かび上がるという。

 水に浸し、日光にかざすことで、一瞬、中の文字を読む事が出来るというのだ。


「オンコジーンは全部で六つ」

 ゆっくりと岩へと腰を下ろし、仙人は話始めた。年齢はどのくらいか想像もできなかったが、口調はしっかりとしていた。眼光の鋭さも人知を超える。


「刻まれし文字は、二種類ある。片や金属で作られし変化を呼び起こす『ras』系の三枚と、片や翡翠で作られし永遠の魂を呼び起こす『myc』系の三枚。そして、導かれし者が、三枚の板と三枚の石とを集める時、奇跡が起こる。それはいかなる者も止めることは出来ない奇跡なのじゃ」

 仙人は遠くのほうを眺めながら続ける。


「そして、オンコジーンは持ち主を選ぶという。わしが導かれし者だと思っておったが、どうやら違ったようじゃな」

 仙人は再び納屋へと入っていった。

 取り留めのない昔話に、俺たちは戸惑うばかりだった。


「さあ、導かれし者よ。もってゆけ。そして奇跡を起こすがいい」

 仙人が納屋の中から持ってきたのは、もう一つのオンコジーンだった。水に浸して日光に透かすと『N-myc』と書いてある。そう、永遠の魂を呼び起こすための翡翠で出来た三角の石だったのだ。

 仙人が長らく生きながらえてこれたのは、オンコジーンのお陰だったのかもしれない。


 残るオンコジーンは唯一つ。仙人の話によれば『N-ras』と刻まれているはずだという。六つの板が融合するときに、奇跡は起こるのだと。


「だがな、所詮は太古の昔話じゃ。今までその封印を解き、奇跡に巡り合えたと言う話は聞いたことがない。つまり、伝えられていない部分が存在するということじゃろう」

 これがオンコジーンの伝説。決して伝えられてはいけない禁断の紋章。

 何かしらのリスクを案じる仙人を横目に、与えられしパンドラの箱を開けたくなった。

 

 仙人に礼を言って、俺たちは山を降りた。

 この後、この仙人に会ったものはいない。


「こんな昔話を本当に信じているの?」

 五つ揃ったオンコジーンを目の前にしても、朱里はまだ半信半疑といった様子だ。無理もない。降って沸いたような話なのだから。


「迷信の類は信じていないが、さすがに五つも集まると何か起こるような気がしてくるじゃないか」

 火のないところに煙は立たない。昔話になったからには、このオンコジーンにもきっと何か根拠があるのだろう。奇跡という扉の向こうに何があるのか。いったい誰にとっての、どんな奇跡が起こるというのだろうか。


「さあ、先を急ごう」

 こんな山奥まで警察などが追ってくるとは思えなかったが、田舎の親切な娘にこれ以上迷惑を掛けるわけには行かない。

 身寄りのない娘に、朱里は、朱里の家に来て働かないかと提案し、泊めてもらったお礼とした。

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