第二章 プロセス(進化) 14
戸を開けて階段を上がると、そこは見たこともない街だった。
服装は以前のままで、財布などはないが、三角形の板の入ったベルトはそのままだった。
三角形の板を一枚取り出し、頂点を使って道端に止めてあった、車の窓ガラスを破壊した。
車はナビ付のを選んだ。
運よく、ガソリンはほぼ満タンである。
直結してエンジンをかけることくらいは朝飯前だ。
急発進し、とりあえず移動しながら、俺はカプジへと車を走らせた。そう、ジェネの住む神に近いという場所だ。
ここからだと、二時間くらいで着くはずだ。爺の家からは少し遠くなるが、致し方ない。
アクセルをめい一杯踏んで、山奥へと入る。
前回来たときと、同じ場所に車を隠し、ジェネに教えてもらった抜け道を全速力で走った。
やがてジェネの大きな屋敷が見えてくる。
桟橋が降りてくるのを少し待って、橋の下を伝って玄関の前まで来た。
玄関の前に立っている二人の守衛を気絶させ、彼の指紋で中に入った。
以前のように監視カメラを誤魔化していくわけには行かないので、一気にジェネの部屋のある最上階まで駆け上がった。
途中、気付かれて、警備員に後を追われることになったが、それより速くジェネの部屋までたどり着いた。
「ジェネ、俺だ。ルイだ。開けてくれ」
扉にドアノブなどはない。
頑丈な扉だが、声は届いているはずだ。
「騒がしいわね」
そういってジェネは俺を招き入れてくれた。
そしてすぐに扉を閉め、警備員に連絡をする。
「客人だから、大丈夫よ。何かあったらすぐ連絡するから」
扉の外まで追って来ていた数人の警備員達の足音が遠のく。
「助かった。有難う。ジェネ、急で申し訳ないんだが頼みがある」
さすがにこれだけ走ってきたので、息が上がっていた。
「いいわ。聞いて上げる。あなたには貸しがあるからね」
頼みの内容も聞かずにジェネは答えた。俺が彼女に出来ない頼みをしないことが分かっていたのかもしれない。
ここは地図には載っていない城。
神に近い場所として崇められ、そこに絵卑家の城があることは知られていない。
俺の手元の発信機が指しているは、ただの山奥に違いない。
そして、このカプジという場所には、特有の磁場があった。発信機もそれに同調させなければ、正確な位置は示さない。
「この手錠、外してもらいたいんだ」
小型爆弾のついた左手を差し出した。
絵卑の最新鋭の設備と知識とがあれば、きっと外せるであろうと踏んでここに来た。
「たぶん、うちの技術チームならできそうね」
そういってジェネは電話をした。何箇所か連絡し、準備が整う。
「代償は大きいわよ」
得意げに鼻を鳴らすジェネは、まだ幼げでかわいらしかった。
「いやな奴を一人、殺してやる」
俺の仕事は殺し屋だ。
「頼む、ジェネ。俺には時間がない」
進む死のカウントダウン。残された時間はあと四十四時間。
ここでこの手錠が外れなければ、俺の未来はない。




