第二章 プロセス(進化) 12
どのくらい眠っていたのだろうか。
緊張と疲労も重なり、随分時間が経っているように思う。
目は閉じているが、瞼の向こう側は明るい蛍光灯で包まれているのが分かる。
手足は金属質のもので板に固定されており、身動きは出来ない。
ベットではなく、机かなにかの上に乗せられているようだ。
「お目覚めかな」
耳元で聞きなれた声がする。懐かしい声だ。幼い頃はよく一緒に修行した。いつまでも超えられない壁でもあった。
「リコ・・兄さん」
十歳年上の、俺と同じように拾われ訓練されてきた義兄だった。リコはどんな情報でも得られる技を鍛えてきた。今回の俺の行動も当然のようにお見通しだったというわけだ。
「何故、実行する前に止めなかった?」
リコであれば、俺を止める事などわけのないことだろう。
「いろいろと事情があってな。ま、お前を捕まえるには、隙がないと出来ないしな」
つまり、今回の襲撃により、最後に俺に隙ができるまで待っていたと言うのだ。
リコは、完璧主義者で、いつも人の先を考えて行動をとる人物だった。
「俺は用済みか?」
この部屋にはリコしかいない。しかし、監視カメラが作動しているのが見える。きっと爺も見ているに違いない。
「残念だが、それが掟だ」
刃向かうものには死あるのみだ。リコは残念そうにこちらを見下ろしている。
「奴隷たちは逃げれたのか? 朱里は?」
まだ意識ははっきりとしていなかったが、あの後どうなったかが気がかりでしょうがなかった。
「奴隷たちは、こちらで確保したよ。実験の結果もすべてこちらで処分した。証拠は一切残っていない」
リコの話によれば、韻一族は、国の防衛庁と手を組み、独自に実験などを繰り返していくうちに、勝手にいろいろな薬物などを作り始めたということだった。
そして、朱里と栗夏が結婚することで、それらを公に使用しようと企んでいたというのである。
二人の結婚という結びつきがなければ、韻一族と栗夏の一族とが手を組むこともなく、お互いにライバル同士のまま緊張を保てるのだと。
だから、俺の所属している組織、つまり爺に命令を出している組織がそれを阻止しようと手を回したという分けだった。この組織こそが、この国を裏で牛耳っている組織でもあるのだ。
だが、俺が韻の地下組織を襲撃を企んでいることを知った裏の組織は、予め手を回し、韻一族との取り引きをし、俺の単独行動で地下組織を破壊することで、今までの悪事を水に流すことにしたという。
普段であれば、このように裏の組織が表に出てくることなどまずありえない。朱里を暗殺して終わらそうとしていたくらいである。俺の身勝手な行動により、このような結果を招いたのだ。
だが、これで朱里と栗夏との結婚には障害がなくなり、二人は結ばれてもよいということになり、韻の一族は、栗夏の一族に吸収されるという形で幕を下ろすという筋書きにするというのである。
つまり、朱里は栗夏の召使のような立場に立たされるということであろう。
事態は何も変わっていなかった。いや、むしろ悪い方向へと流れ始めようとしていたのだ。
朱里を守ることが出来ると思っていたが、大きな力の前では俺など無力に等しいのかもしれない。
命を賭けてですら、彼女を守ることができないのだろうか。
まだ、ここで死ぬわけにはいかない。