第二章 プロセス(進化) 10
バチッ!
俺は、深夜零時きっかりに、配電盤の一部をショートさせた。
一瞬ではあるが、ビルの電源が落ちる。
だが、すぐに他の回線へとつながるので、その一瞬はどこかで落雷があったかのようにも見えた。
運よく天が見方したか、雷こそ鳴ってはいなかったが、外では雨が降り始めていた。
急いで、地下一階にある大金庫室へと向かう。
警備の配置、時間、行動。全てシーズとの打合通りだったので、誰とも遭遇することなく、配電盤室から、金庫室までたどり着けた。
金庫の番号は入手済みだ。それはアデポネが調べてくれたものだった。彼女は看護師でもあるが、コンピューターにも詳しい。内部に入り込んで、毎月変更になる金庫の番号を入手するのは朝飯前だ。
大きな金庫の扉を開けると、中は二十畳以上はありそうな、大きな部屋になっており、いくつかの扉が見えた。
爺の資料によると、そのうちの一つが地下へと入り口となっている。
そこにも、やはり指紋認証システムでロックがかかっている。
この指紋は、シーズが朱里の父親からの手紙を受け取る時に入手したものだった。
鍵は開き、地下への階段が現れた。
真っ直ぐな階段を下りていくと、六畳広間くらいのエントランスとなっており、そこにも暗証番号付きの扉があった。外部との接触を一切断つための大掛かりなシステムだ。
俺はその扉に小型のプラッチク爆弾を取り付け、階段を上り、一度出る。
金庫室の扉は頑丈で、遮音性も高密度だ。爆発の音はほとんど外部には漏れない。
普段であれば、火災報知機が鳴るはずだが、シーズが情報管理室でセンサーを切ってくれている。
再び扉を開き、催眠ガスの缶を放り込んだ。
しばらくしてから、専用の暗視ゴーグルと、鼻栓とを装着し、下へと降りる。
爆発を聞きつけた警備員たちが五人ほど倒れている。二人は爆発でふっとんだ跡だった。
案の定、下は大騒ぎだった。
俺はサイレント麻酔銃で、片っ端から眠らせて行く。
やむなく地下二階は制覇し、地下三階へと降りる。
そこには、奴隷となった人々が収容されている檻がいくつもあった。
まず守衛達を眠らせ、檻の扉に小型爆弾を片っ端から付けていく。
順々に爆弾は爆発し、奴隷達は自由になった。
「さあ、自由だ。みな上を目指せ!」
俺の合図とともに、歓喜の声が上がり、皆一目散に階段を駆け上った。
次は地下四階へと降りる。
至る所にある点滴装置、乱雑おかれているおびただしい数の注射器、ここは人体実験の現場であった。
実験体にされた人々は、正気を失っているものも多く、まともに歩けるものはほとんどいない。
中には、息をしていない者も何人かいた。
とりあえず守衛を眠らせたはものの、彼等を上まで連れて行くのは不可能だった。
「後は警察に任せるしかない」
俺はさらに最下位の地下五階へと降りた。
制限時間は三時間。残された時間はあと三十分を切っていた。
爺の情報は、地下四階までしかなく、その下には何があるかわからなかった。