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第二章 プロセス(進化) 8

 その後、いろいろと準備を整え、決行の日を待った。

 一月に一度、朱里の住むビルのセキュリティに隙が出来るとい。コンピューターのサーバーのフルバックアップのために、一時的に外部との接触が絶たれる時間帯があるという。その間、内部の電源に切り替わるのだが、その切り替わる一瞬がチャンスだとシーズが教えてくれた。

 電源が切り替わるときに、一部の電源をショートさせれば、回復するのに3時間くらいはかかるはずだというのだ。あくまで理論上であって、試したことはないそうだが。それでも、願ってもないチャンスだ。

 これで、内部と外部は完全に遮断され、しかも監視カメラなどの情報もシャトダウンされるという。

 電源が落ちるのは、情報系統だけなので、普通の電源などは変わらず、監視カメラの見張り番以外の人間には気付けないであろうということだった。

 この監視カメラの見張りを、当日シーズがやってくれることになっていた。


「やあ、元気だったかい?」

 久しぶりに見る朱里は、一段と綺麗になっていた。胸の熱い想いは、好きという気持ちなのだとはっきり自覚している。俺はミイフに頼んで、朱里との密会の時間をとってもらっていた。


「ひどいじゃない。突然いなくなるなんて。私のボディーガードがいなくて、狙われたりしたらあなたのせいなんだからね」

 彼女の目には、うっすらと涙が浮かんでいるのが見えた。

 もう、結婚式までは時間があまり残されていない。

 思わず抱きしめたくなったが、まだ理性が効いた。理性などなければいいのにと、本気で思った。


「アデポネは話したか?」

 朱里はゆっくりとうなずいた。あの後、アデポネを時間をかけて問い詰めたそうだ。

 アデポネは以前栗夏の下で看護婦として働いていたが、栗夏に気に入られ、言い寄られていた。貧しい家で生まれたアデポネは、病気の親の生活費と治療費を稼ぐために、収入のよい栗夏の下で働かざるをえなかった。そこに付け込んだ栗夏は、首をちらつかせたり、ボーナスを上げるといったような非情な手段をとり、アデポネを思いのままに従わせたのだった。

 栗夏は朱里との結婚という面子があったので、公には女関係を持つことは出来ない立場である。だから、アデポネは一時の遊び相手として、誰にも知られてはいけいない秘密の関係として付き合わされたいたのだった。

 しかし、その関係も、アデポネの妊娠により終わることとなった。

 アデポネは栗夏以外の男性と関係を持ったことはなかったのだが、栗夏のほうは、自分の子供だということが認められず放り出したというわけだった。

 仕事も失い、病気の両親を連れて路頭に迷っていたときに、偶然朱里と出会い、雇われたという経緯だったのだ。

 アデポネは、その事実を直向きに隠してきた。もしそれがばれようものなら、彼女と、彼女の両親の命の保障はなかった。

 朱里はそんなアデポネを憂い、何があっても守ると約束をして、彼女を受け入れたのだ。


「最低の人間だわ……。でも」

 その後に続く言葉は分かっていた。それでも朱里にとって、栗夏の一族との結婚は避けては通れぬ道なのだ。

 韻一族の崩壊、それは巷の噂になるほどだった。

 もう朱里だけの問題ではないのだ。

 彼女の背中には、多くの人々の生活がかかっていた。


「納得していればいいんだ。ただ……」

 これから俺のしようとしていることが、正しいここなのかどうか分からない。でも、朱里だけには分かってほしかった。

「信じられないかもしれないけど、韻一族がひどいことをしている。俺はこれからそれを阻止しようと持っている。もし、阻止できたなら、韻の一族は滅びるかもしれない。そうしたら、朱里、君は自由になれはしないだろうか」


 朱里には、全てが絵空事のようだったに違いない。

 今までの裕福の生活が、何不自由のない人生が、全て虚構の上に成り立っていたろいうのだ。信じられないのも仕方ない。だが、事実は事実だ。

 俺は、計画を朱里に話した。

 韻一族が奴隷を使って人体実験をしている事。

 そして、俺が殺し屋である事、朱里を殺すはずだった事。だが、朱里を好きになってしまった事。今回の任務が命がけであること。捕まれば死刑は免れない。

 

「朱里、君を助けたい」

 思わず朱里を抱きしめていた。


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