第二章 プロセス(進化) 7
祭りの準備に取り掛かる。
ありとあらゆる武器弾薬をかき集めた。装備出来る数はそれほど多くはないが、補充用も必要となるであろう。
最新鋭の武器とは言い難い代物もあるが、それでもないよりはましだった。
念入りに、火薬は湿気ていないか、トリガーの動きはスムーズかなどチェックし、足りないものは補充した。
これほどの大舞台は初めてだった。
いつもの暗殺であれば、一人を狙うのが常だったのだが、今回はいったい幾つもの死体が出るのか想像も出来ない。
「さあ、行くか」
普段は身に付けない防弾チョッキを纏い、車へと荷を積み込む。
『朱里の暗殺』この指令が爺の所へ来たのは、事が大きくなっては困る者がいるといことだ。極秘裏に勧めなければならない。政治家なのか、国家権力なのか、それとも異国からの侵略なのか。
大きな陰謀の匂いがする事案ではあるが、その真意はわからない。
だが、俺に出来ることは一つだ。
そう、悪を憎みそれを正す。
簡単なことではないことは承知しているが、それ以外に俺の生きる意味などない。
それに、俺が今やらなければ、その役割は他の者に移り、結局は成し遂げられるに違いない。
俺が殺さなくても、朱里は必ず殺される。
そういう世の中なのだ。逆らっては生きていけない。
俺は、忘れずに三角形の板を二枚持った。朱里との間の絆のような気がし、これからの俺の行動を守ってくれるような安心感が持てた。ただの願掛けのようなものだ。
革で作った腰のベルトには、三角形の板が丁度入るようにポケットを作り、肌身から離れないよう工夫していた。
三角形の板は、正三角形だったので、もし集まって亀の甲羅のような六角形を形成するのであれば、六つの三角形があるはずである。俺が二つ持っており、朱里が一つ持っている。残りはあと三つある可能性があった。
板の二辺付けられているギザギザの凹凸が、他にも板があるぞと示しているのだ。
そして車を走らせた。ハンドルを握る手に力が入る。
再び朱里のいるベタへと。
そこで待っているのは、明るい将来などではないことだけは確かだった。
まずは、警備員のシーズに会いに行った。
念入りに立てた計画の鍵を握るのはシーズの動きにかかっている。
「頼めるか?」
シーズには概ね本当のことを話した。あまり深入りしすぎて、彼の身に危険が及ぶのは避けなければならいが、それを承知の上で彼は聞いてくれた。
「そういう事情だったのか。俺に出来ることがあれば協力する。それがこの国のためにもなるのなら」
韻一族の悪行、それを阻止するために俺は雇われたヒットマンだという事、結婚してしまってからは遅いという事。地下施設の写真の資料は説得力があった。
「連絡係には、ミイフを使えばいい。やつは口が固いし、栗夏を憎んでいるからな」
目立つ行動はなるべく控えなければならない。シーズも立場上、自由に動くのは難しい。
何より、目的が明確であり、賛同してくれる同胞が出来ることは心強よかった。
「恩に着る。この貸しはいずれ」
誓いの挨拶とばかりに、拳と拳とを合わせた。
俺が死をも覚悟している事が伝わったのであろう。シーズは熱い視線をよこした。