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第二章 プロセス(進化) 6

ドン。ドン。

 朱里に近づくためにホテル暮らしをしてから半年、久しぶりに我が家へと帰って来て、爺の部屋の扉を叩いた。

 わざわざ戻ってきた理由は、爺に真意を確かめるためだ。

 いい加減な返答では許さない。


「爺、出て来い。いったいどういうことだ」

 古ぼけた大きな木製の扉の向こうで、鍵の開ける音が聞こえる。

 爺は八十歳を超えているが、足腰は丈夫だ。

 

 爺に子供はいない。『分けあり』の子を引き受け、俺のように『仕事』のできるエキスパートに育てるのが爺の役割だった。

 爺に育てられた子は俺の知る限り三人いた。

 一人は俺より十歳年上で、仕事は情報を得るエキスパート。いつも情報はここから流れてくる。

 もう一人は、三歳年下の俺と同じ殺しの技を教えられた女の子だった。俺が仕事をしくじれば、彼女がその後を全うする。


「おお、ルイよ。今回の仕事はまだ終わらんようじゃな」

 長い白髭を触りながら、杖を支えにソファーへと深く腰掛けた。

 テーブルの上を見ると、資料のようなものが置いてあった。

「答えはそこにある」

 爺は俺が何をしに帰ってきたのか察しがついていたようだ。

 半年もの間徹底的に朱里の周囲を調べたが、何一つ出てこなかったのだ。

 俺は爺の資料を見て、わが目を疑った。


 そこにあったものは朱里の住むビルの地下の見取り図だった。それも幾重にも階層に分かれている。

 機密事項は外部には漏れないように、入口は地上の金庫室の扉だけとなっていた。

 防犯カメラをハッキングした白黒の写真が、奴隷と思われる人々を映し出していた。

 誰も知らない闇の世界。そんなものが本当に実在しようとは。

 そして、この情報を知っているものは数少ないという。

 

 よく資料を見てみると、『韻一族は、罪のない人々を奴隷にし、殺人を快楽として、人体実験などを行っている』と書いてあった。

 今回のターゲットが朱里だったので、俺はてっきり朱里が人体実験などを行っているものとばかり思っていたのだ。そして、韻一族の末裔で、最後の血族として朱里の名前が上がったのだということを知った。

 

「やはり、彼女は白だな。それでもやるのか、爺」

 朱里は潔白だ。何より、やさしい心の持ち主である。一族が、どのような悪行をしようとも、彼女が責められるは言いがかりも甚だしい。


「実はな、ルイよ。これは国家機密なんじゃ。つまり、公然と行われとることなのじゃよ。そして、お前がやらぬなら、妹の出番となるだけじゃがな」

 世の悪を絶つ。それが俺の使命なのだと、小さい頃から教えられてきた。その教育に間違いはないと信じている。罪なる者は罰せられなければならない。だが、現実は違う。金持ちや権力者が事実を捻じ曲げ、罪を正当化し、あらゆる理由をつけて罪を蔓延はびこらせる。


「それから、この間言っておった件じゃが」

 朱里を狙う何者かがいることが気がかりだった。

「おそらく……、地下組織に反感を持つ勢力があるらしいで、そいつらの仕業かもしれん。」

 情報通の爺のところにもはっきりとした事がわからないという。ゲリラ的組織なのか、それとも宗教がらみなのか。いずれにせよ、朱里の関係のないところで事態は起きていたのだ。


「最後にひとつだけ教えてくれ。なぜ朱里の誕生日までが期日と言った?」

 爺の資料をすべて受取り、部屋を出て行く前に立ち止まった。

「韻一族が、栗夏の一族と手を結べば、全ては水の泡じゃ。事実は闇に葬られ、誰も手だしのできない組織が誕生するであろう。そうなってはお仕舞いじゃ」


 俺は決意を胸に爺の部屋を後にした。

 このために俺は生まれて来たのだと、その時は確信していた。

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