第二章 プロセス(進化) 4
週に一度、ミイフは朱里の屋敷へと足を運んでいた。
それ以外にも、急な荷物の要請があればすぐに飛んでくるのが、ミイフの好かれている理由だった。
まじめで、約束をきちんと守る男だった。
「で、俺に話ってなんだい?」
居酒屋で酒を酌み交わすことになった。これもシーズの計らいがあってのことだ。
シーズも、朱里がだまされて結婚するのは見るに忍びないということで意見が合致していた。
ミイフは、久し振りの友との酒に、上機嫌だった。
「以前、栗夏のところで働いていて、今は朱里さんのところで働いている人がいるっていう噂を耳にしたんだけど、知らないか?」
シーズとミイフは古い付き合いだった。旧友の頼みとあらば仕方ないという表情を見せる。
本来は、口も堅いまじめな男なのだ。
「ああ。見たことはあるが」
シーズは歯切れの悪い返事をした。
きっと、それ以上に何か知っているに違いない。が、それ以上は話そうとはしなかった。
「名前だけでもいいから教えてくれないか」
栗夏の悪態ぶりは、アルフの方では有名だが、川向うのこちら側のベタまでは伝わって来ない。
それは、暗黙で公然の事実なのである。
だれも栗夏一族には逆らえない。
もちろん、ミイフにとってもそれは自分の身を削る行為に他ならない。
栗夏の悪口を言おうものなら、即刻仕事はなくなる。
それでも、ミイフは朱里の事が好きだった。
密かに想いを寄せているのはミイフだけではないが、結婚に反対なの彼も一緒だったのだ。
「栗夏だけには、朱里さんと一緒にさせるわけにはいかない」
お互いの利害が一致した。
こうして、ミイフは名前だけ教えてくれた。
それは、アデポネだった。彼女は看護師として今は朱里に使えているが、2年前までは栗夏の下で働いていたのだという。彼女は突然、栗夏の下を去ったということだけしか話してくれなかった。
何故、アデポネは栗夏のもとを去ったのだろうか。きっと何か原因がある。
その原因を直接聞いてもいいのだが、それを朱里から聞いてもらおうということになった。
本人からの話のほうが信憑性があるし、俺達が入り込むような話でもない。
その晩は、すっかり意気投合し、夜遅くまで飲み明かした。
味方は一人でも多いほうがいい。
後は、朱里がどうやってアデポネから話を聞き出すように仕向けるかだ。
朱里とアデポネはとても仲がよかった。
そこに付け入るしかない。
「朱里、残念だけど、フィアンセはやっぱりひどい人間だったよ」
次に日の夜、俺は朱里を呼び出した。
「まだそんな事を言っているのね。あなたは最低よ」
朱里の視線は冷たかったが、本当のことを、どうしても伝えたかった。
それがこの国を揺るがすことになっても、彼女に真実を。
「アデポネが全てを知っている。でも、彼女は本当のことは語らない。いや、語れないんだ。理由はわかるだろ?」