第二章 プロセス(進化) 1
夜の街に出て、今ではすっかり少なくなった公衆電話を探していた。
爺との連絡に携帯は使わない。それが約束だったからだ。
「爺、なぜいい加減な資料をよこした?」
七度目のコールで電話に出る。それもいつもの事だった。
そもそもの発端は爺の資料にあった。嘘の資料では仕事ができない。
「資料に嘘はない」
俺が調べた限りでは、爺の資料にあるような人体実験などの情報は一切ない。
それとも、まだ俺の知り得てない情報があるとでもいうのか。
「もう少し時間をくれ。資料が正しければ、仕事はきちんとやる」
仕事というのは、朱里を自殺に見せかけて殺すということである。
ただ、資料が正しければという条件付でだが。
「ルイ、お前まさか……。分かっておるじゃろうな」
俺が今まで仕事をしくじったことはない。
爺からの信頼も厚かった。
「心配するな、爺。俺はバカじゃない」
仕事を遂行できなければ、俺は自殺を選らぶであろう。その覚悟は出来ていた。
「ルイよ、期日は娘が二十歳の誕生日になるまでじゃ。わかったな」
朱里の誕生日まではまだ半年以上ある。すぐに殺せと言われなかったことに安堵していた。
「最後に一つだけ教えてくれ。朱里は誰かに狙われているようなのだが、心当たりはないか」
朱里を狙っていた奴らが持っていた拳銃は、素人が闇で手に入れるような安っぽい拳銃ではなかった。
高性能の、軍事的目的で作られている代物なのだ。
何か嫌な予感がする。
裏で何かが動いているかもしれない。
「ワシの所には情報が来ていない。一応調べておく」
爺が知らない情報ということは、裏の世界の話ではないということなのかもしれない。
表の世界……それは、公的機関。警察、自衛隊。そのあたりか。
俺は受話器を置き、電話ボックスの天井を仰ぐ。
最終的には朱里を殺さなければいけない。
結局の所、俺は殺し屋なのだ。