第一章 シグナル(刺激) 13
運が良かったのは、朱里が運転免許を取得していたことと、奪った車にナビが付いていた事だ。
「ここは……」
痛みはいつもまにか消えていた。
よく眠っていたようで、清々しい気分で俺は目覚めた。
ゆっくりと目を開けると、眩い蛍光灯が幾つもこちらを照らしている。
どうやらベットの上で寝ているようだ。病院かどこかだろうか。
はっと気づくと、肩には包帯が巻かれており、すっかり治療が済んでいる。
上半半身は裸だが、空調が調節させており、調度良い温度で寒くもない。
辺りを見回したが、見たこともない部屋だった。
「まだ寝ていらして。麻酔が切れれば、また痛みだすかもしれませんから」
突然自動ドアが開いたかと思うと、見覚えのある顔が入ってきた。
白衣の下は襟のピンと尖ったシャツを来ている。
「お話するのは初めてね。ルイスさん。アデポネよ。宜しくね」
彼女は朱里の世話係である。時々一緒にいるところを、警備をしていたときに見かけた。
俺は会釈だけして、再びベットへと横になった。
「もう少し運ばれてくるのが遅かったら、死んでいたかもしれないわ。朱里に感謝するのね」
アデポネはそう言って、俺の肩の包帯を丁寧にはがして行き、消毒をしてくれていた。
彼女は医師なのだろうか。朱里の世話係ということ以上の情報は知らなかった。
「大丈夫?ルイスさん」
息を切らしながら、急いで朱里が飛び込んできた。
部屋の天井を見ると、監視カメラが動いている。
「君が、ここまで?」
意識を失った後、何があったのかわからないが、ここは朱里の家で、彼女が俺を運んでくれたことは確かである。
「無事でよかった」
彼女の目には涙がいっぱい溢れ出していた。
思わず、隣にいたアデポネの肩にしがみつく彼女を見ながら、彼女に命を救われたことと、彼女の優しさと愛に触れ、俺は彼女のことを好きになってる自分に気がついた。
「あなたにお願いがあるの」
そういって涙を拭いて朱里は白い歯と笑顔を見せた。
「私のボディーガードになってくれないかしら」
唐突な申し出だった。昨夜、俺が麻酔銃を持っていたことを誤魔化すためについた嘘を信じたのだった。
ターゲットに感情移入してはいけない。これは鉄則だ。
どんな状況であろうと、任務を遂行する。これがプロとしてのプライドであり、ルールだった。
つまり、ルールを守れないものは、死を持って償うしかないのである。
それが裏社会というものであり、例外は許されない。
そんなことは百も承知で、俺は朱里のボディーガードを引き受けた。