内なる獣
いつも読んでくださってありがとうございます。
今回のエピソードでは、レオンの内面にある“闇”と、彼の中に眠る存在の一端が明らかになります。
彼の力は祝福なのか、それとも災いなのか――まだ誰にも分かりません。
ここから物語は少しずつ重く、そして深くなっていきます。
ぜひ最後まで読んでいただけたら嬉しいです。
第7話 内なる獣
レオンの意識の奥底――
そこは光の届かない、果てのない闇だった。
濃い霧が漂い、時折、雷のような閃光が空間を照らす。しかし次の瞬間には、すべてが再び闇に沈む。
ローラはその空間に浮かんでいた。まるで夢の中にいるかのように、身体の感覚が曖昧だった。自分がどこにいるのかさえ分からない。ただ、胸の奥に不安だけが広がっていく。
――ドクン。
心臓の鼓動が、異様なほど大きく響く。
――ドクン。ドクン。
呼吸の音さえ反響するほどの静寂。
そして、その静寂を切り裂くように、突如として咆哮が轟いた。
耳をつんざくような獣の叫び。
闇の奥から、巨大な影が姿を現した。
黄色に輝く瞳。
長く鋭い爪。
黒い翼が大きく広がり、五本の尾が蛇のようにうねる。
それは“獣”だった。
次の瞬間、ローラの身体が宙で止まる。首を巨大な爪に掴まれていた。
「ここに来るべきではなかったな……」
歪んだ低い声が、頭の内側に直接響く。
ローラは声も出せない。身体が凍りついたように動かない。
獣はじっと彼女を見つめた。
「……お前は、あの女によく似ている。あの“裏切り者”に」
そして、獣は笑った。
それは笑い声と呼べるものではなかった。何百もの声が重なったような、不気味な反響だった。
同じ頃、基地の医療室では異変が起きていた。
レオンの身体が検査台の上で激しく震えていた。皮膚が波打ち、瞳の色が何度も変わる。体毛が現れては消え、空気の圧力が部屋を満たしていく。
風が吹き荒れた。
「お母さん!しっかりして!」
ララが必死にローラを支える。
「全員、今すぐ外へ出ろ!!」
リーの叫び声が響き、医療スタッフは慌てて部屋を出ていった。ドアが閉まった瞬間、風圧がさらに強くなる。
ローラの手はまだレオンの額に触れていた。接触している部分から煙が上がる。
「弱ってる……私も中に入る!」
「だめだ!危険すぎる!」
リーが止めた瞬間、ローラの身体が大きく震えた。
リーは強引に彼女の手を引き離す。
その瞬間、風は止んだ。
ローラは床に崩れ落ち、息を荒げる。
「この子を……ここから離して……」
震える声で告げる。
「この中にいる……あれは……とても危険よ……このままじゃ、ここにいる全員を殺す……」
リーは迷わなかった。
ポータルを開き、気を失ったレオンを抱えて自室へと運ぶ。薄暗い廊下には非常灯の赤い光だけが灯っていた。
部屋は簡素だったが、古い鎧や書物が並んでいた。
レオンをベッドに寝かせ、短い手紙を残す。
『すぐ戻る。ここから出るな。 ――L』
リーは部屋を後にした。
一方、指令室では医療室の映像が再生されていた。
総司令官ドリアは無言で画面を見つめる。
「状況は制御不能だ。ローラが回復次第、評議会へ報告する」
映像データが送信された。
ローラの部屋では、彼女がベッドに横たわっていた。額には汗がにじみ、身体はまだ震えている。
ララがそばに座り、髪を撫でていた。
「大丈夫……私がいるから……」
静かなピアノの音色だけが部屋に流れる。
扉が開き、リーが現れる。
「今はやめて。お母さんを休ませて」
ララの言葉に、リーは何も言わず扉を閉めた。
レオンが目を覚ましたのは、その直後だった。
リーが部屋に入る。
「大丈夫か?」
「……たぶん」
息はまだ荒い。
「こういうことは前にもあったか? 何を見た?」
レオンは首を振る。
「よく分からない……影だけだ」
リーはしばらく沈黙した後、口を開く。
「“創造主”を知っているな。あの戦士たちに話していた」
そしてまっすぐ見つめる。
「……それは、お前の中にいる“あれ”のことか?」
レオンは静かに答えた。
「違う。僕の中の存在は……創造主とは比べ物にならない」
沈黙が落ちる。
その時、通信機が鳴った。
ララからだった。
『リー……来て。急いで……お母さんのこと』
リーは通信を見つめ、そしてレオンを見る。
扉を閉めながら、低く呟いた。
「……お前の中には、まだ何が隠れているんだ。レオン」
物語は、さらに深い闇へと進み始めていた。
第7話を読んでいただき、本当にありがとうございます。
レオンの中にいる存在は、今後の物語の大きな鍵になります。
そして、リーやララ、ローラとの関係も少しずつ変化していきます。
これから戦いだけでなく、それぞれの信念や心の葛藤も描いていく予定です。
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