カイロスの刻印
いつも読んでくださり、本当にありがとうございます。
今回のエピソードでは、レオンの中に眠る存在について、少しだけ核心に触れる内容になります。
彼の力は単なる戦いのためのものではなく、物語全体の運命に関わる大きな意味を持っています。
まだ多くは語られませんが、ここから物語は少しずつ真実へ近づいていきます。
どうか最後まで見守っていただけたら嬉しいです。
第6話 ― カイロスの刻印
(Dai 6-wa — Kairōsu no Kokuin)
松明の淡い光が、石造りの家の壁を揺らしていた。濃い香の煙が室内に漂い、空気を重くしている。
リーは静かに座り、ヴィデュー族の老預言者と向き合っていた。
預言者は細く震える声で語る。
「その少年は……忘れ去られた古き神の火種を宿している。だが、本人はまだそれを知らない。やがて“時”が答えを求めるだろう……」
リーは眉をひそめた。
(もし本当なら……レオンは危険に晒される)
その瞬間、場面は激しく切り替わった。
巨大な水晶柱が立ち並ぶ厳粛な空間。黒い結晶の円卓を囲むように、浮遊する議席が並んでいる。
そこは、エックスプリアン評議会の会議室だった。
リーが足を踏み入れると、すでに評議員たちの投影が揃っていた。実体で присутствしているのは、母ローラと総監ドリアだけである。
冷たい声が響く。
「いいところに来たな、リー。我々は聞いたぞ。お前がクリザーディアンを組織へ連れ込んだと」
別の評議員が続ける。
「規則違反だ。お前だけは例外として認めてきたが、それはここで育ったからだ。第二のクリザーディアンは許容できない」
さらに別の声が重なる。
「あの種族は災厄しか生まない。お前自身も、その血ゆえに苦しんできたはずだ」
リーは拳を握り締めたが、冷静に言った。
「分かっています。ですが……彼を排除するべきではありません。私は見た。あいつの中に――クリザーディアンの神、カイロスがいる」
空気が凍り付いた。
「……何だと?」
「馬鹿な。かつてそれを宿したのは、クリザーディアンのリムだけだ。彼は天へ昇ったと伝えられている……」
「確証はあるのか?」
リーは静かに語り始めた。
「二年前、任務でヴィデュー星へ行きました。そこは戦争難民の避難地になっていた。私は一人の老女と出会いました。彼女はこう言った――“創造主は、やがてすべてを呑み込む。時は近い”」
彼は続ける。
「最近、もう一度そこへ行った。彼女は私を待っていた。そして言ったんです。
“その少年を命を懸けて守れ。彼こそ、来るべき未来の答えだ”と」
ローラが前に出た。
「その子を私の所へ連れてきなさい。私が精神に入り、確かめるわ」
評議員が頷く。
「調査結果はすぐ報告しろ」
次々と投影が消え、部屋にはリー、ローラ、そしてドリアだけが残った。
救出された戦士たちの部屋。清潔な寝台と温かい食事が用意されている。
九人の戦士たちはそれぞれ休んでいた。レオンは窓際に座っていた。
扉が開き、リーが現れる。
「レオン、来い」
戦士たちがざわめく。
「なぜいつもあいつだけだ? 俺たちだって戦ったんだ!」
年配の男が肩に手を置いた。
「落ち着け。お前は生きている。それが答えだ。今ここで眠れているのは、あの少年のおかげだ」
レオンは何も言わず、リーの後に続いた。
白く清潔な部屋。中央に浮かぶ診察台。
精神検査室だった。
ローラが穏やかに言う。
「横になって。すぐ終わるわ」
レオンは不安げに寝台へ横たわる。装置が自動で身体に合わせて調整された。
ローラは額に手を当てる。彼女の瞳が金色に輝いた。
「目を閉じて。抵抗しないで」
闇だった。
音も光もない虚無。遠くで心臓の鼓動だけが響く。
ローラの意識が、レオンの精神世界へと入っていた。
「……なんて暗い場所なの」
その時、冷たい風が吹いた。
霧が立ち込める。
闇の中から“何か”が動いた。
巨大な影。
黒い翼。
燃えるような黄色の眼。
煙の蛇のように蠢く五本の尾。
怪物が姿を現した。
次の瞬間、ローラは首を掴まれ宙に持ち上げられた。
声が出ない。
獣が低く唸る。
「……目覚めよ……手遅れになる前に……」
闇が一気に閉じた。
――暗転。
第6話を読んでいただき、ありがとうございました。
今回はアクションよりも、世界観と伏線を中心に描いた回です。
カイロスとは何なのか、なぜレオンに宿ったのか――
その答えは、これから少しずつ明かされていきます。
物語はここから大きく動き始めます。
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次回もよろしくお願いします!




