黒き天使 第206話――その代償
ここまで『黒き天使』を読んでいただき、ありがとうございます。
前回、ララの覚醒によって状況は大きく動きました。
しかし、それは希望ではなく――さらなる絶望の始まりでもありました。
今回のエピソードでは、「選ばなかった者たち」の重さ、そしてそれぞれの後悔と決断が描かれます。
組織の中庭は、静まり返っていた。
誰もが息を呑み、ただ見ていることしかできない。
地面に倒れたララ。
その前に立つオーディン。
彼はゆっくりと歩み寄った。
「見せてやろう……」
冷たい声が響く。
「エクスプリアンに逆らった代償を」
ざわめきが広がる。
群衆の中で、ヴィニーがレニの腕を掴んだ。
「パパ……助けて……!」
小さな声。
だが、それは確かに届いていた。
レニの身体が硬直する。
ララを見る。
オーディンを見る。
しかし――動けない。
――――
オーディンが手を上げた。
次の瞬間、エネルギーが落ちる。
轟音。
ララの身体が衝撃に包まれ、そのまま動かなくなった。
完全に意識を失った。
オーディンは彼女を肩に担ぐ。
無表情のまま、観察するように見つめた。
「興味深い……」
低く呟く。
「クリザード人とエクスプリアンの融合体か……」
彼の口元が歪む。
「もしレオンとの間に子が生まれていたなら……
さらに危険な存在になっていただろう」
場の空気が凍りついた。
オーディンは振り返る。
「この女は処刑する」
沈黙。
「だが今ではない」
歩き出す。
「長老たちが直々に確認したがるだろう」
――――
「やめて!」
ラウラの叫びが響いた。
彼女は走り出し、全力で攻撃を放つ。
しかし――
オーディンは軽くかわす。
そして反撃。
衝撃音。
ラウラの身体が吹き飛ばされ、地面に叩きつけられる。
「ラウラ!」
ドリアが前に出る。
彼女の前に立ちはだかる。
「これ以上はさせない!」
彼の声は震えていたが、覚悟は揺るがない。
「たとえ命を落としても……
ラウラだけは守る!」
オーディンを睨みつける。
「俺は約束したんだ!」
ドリアは全力で突進する。
エネルギーが爆発する。
だが――
オーディンは微動だにしない。
すべてを受け止める。
そして一撃。
鈍い音。
ドリアの身体が崩れ落ちた。
――――
その様子を、ダリアムは見ていた。
拳を握る。
震える指先。
「……父さん……」
目には葛藤が浮かんでいた。
憎しみ。
迷い。
だが――動けない。
――――
ジラはナンドを見た。
「行くよ」
ナンドは無言で頷く。
二人が踏み出そうとした、その瞬間。
――空気が裂けた。
鋭い斬撃音。
次の瞬間。
オーディンの胸に傷が刻まれていた。
血が静かに流れ落ちる。
誰もが目を見開いた。
そこに立っていたのは――キラ。
赤く燃える瞳。
クリザードの爪を露わにした手。
身体は震えていた。
恐怖ではない。
力による震え。
そして――彼女の腹部には、新たな命が宿っている。
炎のオーラが周囲を焼く。
「ララを離せ」
低く、しかし確かな声。
「今すぐに」
オーディンが初めて表情を変えた。
驚愕。
――――
キラは一歩踏み出す。
その瞬間、圧倒的な圧力が場を支配する。
空気が重くなる。
オーディンの動きが一瞬止まった。
「この……外道が」
キラの声は怒りに満ちていた。
「離せって言ってるんだよ」
オーディンは歯を食いしばる。
だが次の瞬間、笑みを浮かべた。
「安心しろ」
ララを見下ろす。
「殺しはしない」
視線をキラへ。
「この女は利用価値がある」
静かな声。
「アレスを止めるための“鍵”になる」
――――
そして。
オーディンの姿が歪む。
空間がねじれる。
次の瞬間――消えた。
ララを連れて。
――――
静寂が戻る。
破壊された中庭。
泣き崩れるラウラ。
倒れたドリア。
父に抱きつくヴィニー。
荒い呼吸のキラ。
空を見上げるナンド。
目を閉じるジラ。
そして――
レニは動かなかった。
ただ立ち尽くす。
「……俺は……何をしている……?」
風が吹き抜ける。
その場にいた誰もが感じていた。
組織は、もう一つではない。
完全に――崩れ始めていると。
――続く。
読んでいただき、ありがとうございました。
今回のエピソードでは、「選ばなかったこと」の重さが描かれました。
レニ、ダリアム、それぞれが動けなかった理由と、その代償が少しずつ現れ始めています。
そして新たに登場したキラ。
彼女の存在、そして“命”が今後の物語に大きく関わっていきます。
物語はここからさらに加速していきます。
次回もよろしくお願いいたします。




