アンジョ・ネグロ — 第五季 第203話「父の心」
どれほど強い力を持っていても――
人の心を動かすのは、
いつだって「愛」だ。
K11の衛星。
巨大兵器は、限界を迎えつつあった。
内部から響く振動。
エネルギーの脈動が、空間そのものを揺らしている。
カウントダウン。
00:03:42
終わりが近づいていた。
その頂上で――
レオンとレニは向き合っていた。
互いに傷だらけ。
呼吸は荒く、体力も限界に近い。
それでも、どちらも倒れていない。
レニが先に動く。
黒い炎が再び噴き上がる。
「終わらせる……!」
踏み込む。
だが――
レオンは剣を構えなかった。
一歩ずらす。
回避。
そして――
そのまま走り出した。
兵器へ向かって。
レニの目が見開かれる。
「レオン!?」
レオンは振り返らない。
「俺の敵はお前じゃない!」
その声は真っ直ぐだった。
五元素が再び解放される。
雷が集束する。
「俺の戦う相手は――これだ!」
放つ。
巨大な雷撃。
BOOOOM
山全体が震える。
だが。
その前に立つ影。
レニ。
黒炎が爆発する。
攻撃が止められる。
「やめろ!」
怒号。
反撃。
拳が直撃する。
レオンが地面に叩きつけられる。
CRASH
だが――
倒れない。
すぐに立ち上がる。
――――――――――
レオンは再び歩き出す。
ゆっくりと。
まっすぐに。
兵器へ向かって。
レニが叫ぶ。
「やめろって言ってるだろ!」
レオンは止まらない。
そして――
静かに言った。
「なあ、レニ」
その声は優しかった。
「もし……」
振り返る。
「ケルとヴィニーが、あそこにいたら」
沈黙。
「それでも押すか?」
時間が止まる。
レニの身体が固まる。
レオンは続ける。
「クライザドにもいるんだ」
「家族が」
「子供が」
一歩。
また一歩。
「お前と同じだ」
完全な静寂。
そして――
レオンは言った。
「俺はお前と戦わない」
まっすぐに見つめる。
「だって、お前は俺の仲間だから」
そのまま前へ進む。
レニの声が震える。
「やめろ……」
黒炎が暴走する。
「やめろぉ!!!」
攻撃。
連撃。
何度も。
何度も。
レオンに叩きつける。
だがレオンは――
避けない。
受けながら進む。
「……頼む」
小さな声。
「もうやめてくれ」
――――――――――
母艦。
全員が見ていた。
カウントダウン。
00:02:11
誰も喋らない。
ナンドが拳を握る。
「立てよ……」
低く呟く。
「レオン……」
ジラが静かに言う。
「彼は……敵すら救おうとしてる」
――――――――――
隔離室。
ララの手が震える。
「レオン……」
涙が止まらない。
その時。
彼女の瞳が変わる。
金色。
縦に裂ける瞳孔。
獣の目。
ラウラが息を呑む。
「ララ……?」
だがララは止まらない。
画面を見つめる。
「立って……」
「お願い……」
――――――――――
広場。
カウントダウン。
00:01:32
ジラが空を見る。
何かに気づく。
「……月」
視線が鋭くなる。
「繋がってる」
ナンドが聞く。
「何が?」
ジラが答える。
「エネルギーの回路」
「ここから月へ」
そして。
ヴィニーを見る。
泣き続ける少女。
「……できるかもしれない」
手を上げる。
闇が広がる。
月光が混ざる。
空間が歪む。
ポータル。
「今しかない」
ヴィニーを見る。
「行きな」
少女が走る。
恐怖を振り切って。
飛び込む。
――――――――――
月。
レオンは膝をついていた。
呼吸が乱れる。
黒炎がまだ揺れている。
レニの身体が震える。
「俺は……」
声が途切れる。
カウントダウン。
00:00:48
その時。
小さな足音。
「パパ!!!」
レニの時間が止まる。
ゆっくり振り向く。
「……ヴィニー?」
少女が走る。
そして――
抱きつく。
強く。
「やめて……」
涙。
「お願い……」
黒炎が消える。
完全に。
レニの手が震える。
ゆっくりと娘を抱き返す。
そして――
崩れる。
涙が溢れる。
「……ごめん……」
「ごめんな……」
――――――――――
母艦。
静寂。
ナンドが小さく笑う。
「……まだ終わってないな」
――――――――――
月。
レオンが立ち上がる。
ゆっくりと。
カウントダウン。
00:00:27
レニは動かない。
だが。
その心はもう、戦っていなかった。
崩れ始めていた。
決断の時が来る。
――続く。
世界を変えるのは力じゃない。
心だ。
次回、決断。




