第百八十八話『影の中の決断』
戦いは、剣だけで起こるものではない。
時に――
それは静かに始まる。
誰にも気づかれず、
心の中で。
K11惑星。
司令室。
青い光が空間を照らしていた。
無数のホログラムが浮かび、戦況データが流れ続ける。
リウはそれを見つめていた。
無言で。
その隣で――
ローラは立っていた。
だが、その視線は画面ではなかった。
もっと遠く。
もっと深い場所。
沈黙が続く。
やがて、彼女が口を開く。
「……リウ」
低い声。
「レオンたちには……言わないで」
リウの眉が動く。
「何をだ?」
ローラは息を吸う。
そして、吐く。
「知られたら……敵が増える」
静寂。
「Xプリアン」
その言葉に、空気が変わる。
リウの目が鋭くなる。
「まさか……」
ローラは目を逸らす。
「もう動いてる」
沈黙。
「兵器が……完成する」
その一言。
重い。
致命的に。
リウが低く言う。
「……それは」
声が震える。
「虐殺だ」
ローラは何も言えない。
ただ、拳を握る。
「止めれば、もっと大きな戦争になる」
言い訳。
それでも――現実。
リウは目を閉じる。
「……最低だ」
振り返る。
そして、そのまま部屋を出る。
扉が閉まる。
ローラは動かない。
ただ立っている。
罪と共に。
扉が再び開く。
ララが入ってくる。
廊下を見る。
リウが去っていく背中。
「……変ね」
だが、何も言わない。
報告書を置く。
「任務、完了」
ローラは頷くだけ。
心は別の場所にある。
数時間後。
別区画。
巨大な窓。
宇宙が広がる。
一人の男が立っていた。
背後で扉が開く。
「呼びましたか」
レニが入る。
男が振り向く。
ゆっくりと。
その目。
冷たい。
「……お前が生き残りか」
レニを見下ろす。
「黒炎の種族」
笑う。
「絶滅したと思っていた」
レニは腕を組む。
「何が言いたい」
男が近づく。
「誰が滅ぼしたか……知っているな?」
沈黙。
レニの目が冷える。
「……クライザディアン」
男が満足そうに笑う。
「そうだ」
軽く頭を下げる。
「オーディンだ」
空気が歪む。
見えない圧。
「協力してほしい」
低く言う。
「すべてを終わらせるために」
レニの目が細くなる。
「条件がある」
オーディンが一歩近づく。
「誰にも言うな」
沈黙。
「たとえ反対でも」
レニは即答する。
「構わない」
その声には迷いがない。
「奴らを消せるならな」
オーディンの笑みが深くなる。
「いいだろう」
窓の外を指す。
「兵器だ」
静かに。
「クライザドへ撃つ」
レニは黙る。
「全員が集まる瞬間にな」
空気が凍る。
「……捕虜は?」
レニの声。
低い。
オーディンは迷わない。
「死ぬ」
沈黙。
「それが代償だ」
そして――
さらに冷たい言葉。
「事故にする」
「あるいは――神の裁き」
小さく笑う。
「信じる者は多い」
レニの拳がわずかに動く。
オーディンが続ける。
「レオンには無理だ」
断言。
「止める」
沈黙。
「だから、お前が必要だ」
近づく。
「どうする?」
過去がよぎる。
炎。
崩壊。
絶滅。
叫び。
そして――
レニの目が決まる。
「……やる」
その一言。
すべてが決まる。
オーディンの背後に――
黒い影。
蠢く。
「いい選択だ」
低く。
「任務を与える」
静かに。
「レオンたちを遠ざけろ」
滝の音。
激しい水流。
静かな場所。
レオンとララが座っている。
束の間の平穏。
だが――
足音。
レニが現れる。
「……任務だ」
デバイスを差し出す。
レオンが受け取る。
「……雨の惑星?」
ララが眉をひそめる。
「変ね」
レニを見る。
「あなたは?」
一瞬の沈黙。
「別任務だ」
短く。
それだけ。
水音が響く。
だが――
空気が変わっていた。
見えない何か。
動き始めている。
影の中で。
第百八十八話を読んでいただき、ありがとうございます。
今回は“戦いの裏側”が描かれました。
剣ではなく、「選択」と「思想」による戦いです。
レニの決断は正義か、それとも過ちか。
そして、レオンたちは何も知らずに次の任務へ。
物語はここから、さらに危険な方向へ進んでいきます。




