第176話 — 「轟く犠牲」
強さとは、勝つことではない。
誰かのために、自分を差し出す覚悟だ。
そしてその夜、
一つの命が、その意味を証明する。
赤い警告灯が、静かに点滅していた。
艦内の空気は張り詰め、誰もが言葉少なに準備を整えている。
ララがホログラムを操作しながら、全員に視線を向けた。
「目標はヴォラス。地表の崩壊と共に、霊的な歪みを広げている存在よ。
人々の絶望を力に変えている。」
レオンは腕を組み、静かに頷く。
「ただの力じゃない。心を折る戦いだ。」
ラガーが拳に包帯を巻きながら、低く笑う。
「なら、思いっきり叩き返してやる。」
ザイラは冷たい目で前を見据えた。
「彼の幻想に飲まれないことね。
私は影を操る。あなたは衝撃を生む。
合わせれば——雷を孕んだ闇になる。」
やがて、彼らは降り立った。
大地は裂け、空は黒く渦巻いていた。
風は重く、呼吸すら苦しい。
遠くに見えるのは、崩壊した街と、逃げ惑う人々。
ナンドが低く呟く。
「絶望を餌にしてるな…」
レニは眉をひそめた。
「ここまで歪むものか…」
その先に——
ヴォラスは立っていた。
黒い鎧。空虚な瞳。
その周囲には、魂の残響のような影が渦巻いている。
戦いは、すぐに始まった。
影が大地を裂き、空気が悲鳴を上げる。
ザイラは月光のような幻影を放ち、視界を歪ませる。
その中をラガーが突き抜けた。
雷が炸裂する。
「喰らえ!!」
轟音。
だが——
ヴォラスは笑った。
「それが…希望か?」
次の瞬間。
世界が歪む。
視界に映るのは——過去。
失った者たち。救えなかった命。
胸を刺す記憶。
ザイラの呼吸が乱れる。
「……っ」
ラガーも動きが止まる。
だが、彼は歯を食いしばった。
「……こんなもんで、折れるかよ」
一度距離を取る。
瓦礫の陰。
静かな時間が流れる。
ザイラが、ぽつりと呟く。
「もし、本当に神がいるなら…
どうして、あの人たちは救われなかったの?」
誰もすぐには答えられない。
レオンがゆっくりと口を開く。
「イエスは、苦しみを消すために来たんじゃない。
その中で、共に立つために来た。」
ザイラは目を伏せる。
「…綺麗な言葉ね」
ナンドが静かに言う。
「でも、俺は見た。
祈りが、救いになる瞬間を。」
再び、戦場へ。
今度は、さらに激しかった。
魂の嵐が吹き荒れる。
ラガーは、ひとり切り離された。
別の空間。
そこに現れるのは——
責める声。
救えなかった命たち。
「お前のせいだ」
「弱かったからだ」
ラガーの足が止まる。
拳が震える。
その時。
静かな光が差す。
ザイラの力だった。
幻影の中に、別の記憶が映る。
救えた命。
守った笑顔。
小さな手を握った日。
ラガーの目が揺れる。
そして——
戻る。
「……まだ終わってねぇ」
彼は再び立ち上がる。
雷が、轟く。
ザイラとラガー。
二人の力が重なる。
闇と雷。
一瞬、空が完全な“日食”に包まれる。
その中心から——
雷が落ちる。
「これで終わりだ!!」
直撃。
爆発。
ヴォラスは崩れ落ちた。
だが。
終わりではなかった。
地面が脈打つ。
黒い核が露出する。
崩壊エネルギー。
街を巻き込むほどの爆発が、始まる。
「まずい…!」
誰も近づけない。
触れれば、命はない。
その時——
ラガーは、すでに動いていた。
「ラガー!!」
ザイラの声が響く。
だが、彼は振り返らない。
「行け」
それだけだった。
彼は核を抱えた。
雷が体を包む。
焼ける。
崩れる。
それでも、離さない。
「守るって…こういうことだろ」
微笑む。
その顔は、静かだった。
光。
そして——
静寂。
ザイラは、崩れ落ちた。
手が震える。
涙が止まらない。
「……どうして…」
レオンが肩に手を置く。
「彼は選んだんだ」
ナンドは何も言わない。
ただ、拳を握る。
レニは遠くを見つめる。
「……あんな選択ができるなら…」
言葉は、続かなかった。
空を見上げる。
遠く。
微かに光る、緑の影。
——兵器。
まだ終わっていない。
レオンの声が、静かに響く。
「戦いは、勝つためだけじゃない。
誰かのために立つことだ」
犠牲は、終わりではない。
それは、残された者に託された意志だ。
そして今、
その意志はザイラの中で燃え始める。
次回——
「残された者の戦い」




