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悪役令嬢にされたお姉様が○○されるのを断固阻止します!  作者: 夜宵
第二章 学び舎の影と、覚醒の輝き

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9:冷たい壁と、最初の試練

 入学式の翌日。リルセリアは、午後の授業を終えた後、上級生棟のサロンに呼び出された。ティアは妹として、また護衛を兼ねて同席を許された。


 サロンには、3年生の王太子シエルが、すでに着席していた。


「リルセリア嬢、入学おめでとう。そして、ティアリア嬢も、飛び級とは素晴らしい功績だ」


 シエルは立ち上がり、完璧な笑顔を浮かべた。しかし、ティアの目には、その笑顔の周囲の魔力が不自然に振動しているのが見えた。


(殿下が心をこちらに向けようとするたび、それを何者かが無理やり押し殺しているみたいだわ)


「ありがとうございます、殿下。ご多忙の中、お時間をいただき恐縮です」


 リルセリアは優雅に会釈しつつ、意を決してシエルを見つめた。


「殿下、学園生活が始まりましたが、これから数年間は、わたくしと殿下が最も近しい場所にいる期間かと存じます。つきましては、よろしければ、明日の昼食を……ご一緒させていただけませんでしょうか?」


 リルセリアは、婚約者として、シエルとの心の距離を縮めたいという強い願いを、控えめながらも明確な提案に込めた。


 シエルの表情が、一瞬、揺らめいた。その瞳の奥に、わずかな喜びと戸惑いが交錯する。


(ああ、違う。彼女は私の婚約者だ。私は彼女と、もっと、個人的な――)


 ティアは、シエルの魔力が一瞬乱れ、そこからリルセリアに好意を抱く純粋な感情が漏れそうになったのを感知した。だが、それと同時に、ヴァルドの「不協和音」が強く、鋭いノイズを放ち、シエルのその感情を瞬時に掻き消した。


 シエルは目を閉じ、再び開くと、先ほどの温かみのない表情に戻った。


「そうか。君の意欲は理解できる。しかし、すまない。学園内での私的な会合は、宮廷の定める正式な手順を経なければならない」


 シエルの言葉は形式的で冷たい。


「君との関係は、まず国政と安定の上に成り立つべきだ。今は勉学に励むのが君の責務。公務に支障のない程度に励んでほしい」


 リルセリアは、シエルの冷たい拒絶に、露骨に顔色を失った。


「公務に支障のない程度……ですか。殿下は、わたくしの個人的な時間や願いを、その程度の存在だとお思いで?」

リルセリアの声には、はっきりとした寂しさと屈辱が混じった。


「そうではない!これは……」

シエルは言葉に詰まり、言い訳を探すように目を泳がせた。


「これは国のためだ。君も公爵令嬢として、その覚悟を持って学園に入ったはずだろう」


 シエルの態度は、リルセリアを愛しているのではなく、国家の道具として見ていると断言しているに等しかった。


 ティアは、このままではリルセリアの心が完全に砕かれると判断し、静かに口を開いた。


「お姉様、殿下は公務でお疲れでいらっしゃいます。殿下の仰る通り、勉学に励まれた後、改めて公式の場で、お話の機会を設けていただきましょう」


 ティアの冷静な介入で、シエルはホッとした表情を見せた。


「ありがとう、ティアリア嬢。その通りだ。公務で立て込んでいてね。すまない、リルセリア嬢。また後日、公式に時間を取ろう」

「……かしこまりました」


 リルセリアは俯き、心に深い傷を負ったまま、それ以上シエルを見ようとしなかった。面会は冷たい形式を残して終わった。


◇◇◇◇◇


 上級生棟を出た後、リルセリアはため息をついた。


「ねぇ、ティア。殿下、私と話すのが嫌なのかしら?昔は、もう少し話してくださったのに……」

「お姉様、そんなことはないわ。殿下は公務でお疲れなのよ」

ティアは励ますが、心の中ではヴァルドの工作の恐ろしさを実感していた。


 その時、Aクラスの担当教官であるロレンツォ魔術教官が、親しげに二人に近づいてきた。


「おお、アルバレート嬢。そして、飛び級の天才、ティアリア嬢。ちょうどよかった」

「ロレンツォ先生」

「実はね、君たちAクラスには、早速重要な特別任務が課されたのだよ」


ロレンツォは柔和な笑みを浮かべて言うが、ティアはその魔力に、獲物を追い詰めるような興奮を読み取った。


「特別任務、でございますか?」

「うむ。君は王太子の婚約者候補という立場上、一般の生徒とは異なる視点を持たねばならない。そこで、来週の学術会議で発表される『古代魔法陣の応用』に関する予備資料の整理と、発表要旨の作成を君に一任したい」


 リルセリアの顔色が変わった。それは上級生でも手を焼く、膨大な専門知識と時間を要する任務だ。


「ですが、それはあまりにも重い任務では……」

「いやいや、君の才覚なら問題ない。これは君の責務だよ、リルセリア嬢。殿下も君の能力に期待しているはずだ」

ロレンツォは笑顔のまま、王太子の名前を持ち出し、リルセリアの責任感を刺激した。


「……わかりました。謹んで、お受けいたします」

リルセリアは重圧に押しつぶされそうになりながらも、断ることはできなかった。


◇◇◇◇◇


 夜、レオンハルトの自室。ティアは興奮気味に報告した。


「やはり、ロレンツォよ!殿下との関係に悩んでいるお姉様を、過大な責務で孤立させようとしているわ!」


「彼の目的はリルセリアの消耗と、学園での孤立だ。その特別課題を成功させても、奴は別の課題で責めるだろう」

レオンハルトは壁に立てかけた地図を見つめている。


「お兄様、私に考えがあるわ。あの課題は私がやる」

「待て!ティア。君の目標は『魔力を隠し、静かに調査すること』だろう。課題を肩代わりすれば、君がリルセリア以上に天才だと世間に知れ渡る。目立つのは危険だ!」


レオンハルトは声を荒げた。


「大丈夫。課題は私が完璧に終わらせる。その上で、オルセン教授に接触する足がかりにするのよ。あの教授の魔術理論補講で、彼の研究テーマを少しだけ助ける」


レオンハルトは、ティアの直感と大胆さに目を見張った。


「わかった。僕がロレンツォの素性を探っている間に、君は課題を完璧にクリアし、オルセン教授の信頼を得て、彼の庇護下に入れ。それが僕の最後の任務だ。ティア、これが君の学園での第一歩だ」


ティアは頷いた。


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