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悪役令嬢にされたお姉様が○○されるのを断固阻止します!  作者: 夜宵
第二章 学び舎の影と、覚醒の輝き

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8:ロレンツォの魔影と、オルセン教授の光

 入学式を終えたティアとリルセリアは、新入生棟の掲示板の前に並んだ。大貴族も平民も関係なく、生徒たちは自分たちのクラスを確認するために群がっている。


「さすがにクラスは別々よね、ティア」


 リルセリアはため息交じりに言った。飛び級したティアは、魔術研究を専門とする特殊クラスに組み込まれるだろうと予想されていたからだ。


 ティアは周囲の視線を警戒しながらも、掲示された一覧表に目を走らせる。


「……あったわ。Aクラス!」


 リルセリアの指が、自分の名前を見つけ、喜びの声を上げた。Aクラスは、公爵令嬢として最も相応しい、上級貴族の子息令嬢が集うクラスだ。


 ティアは、すぐその下に目を移した。通常、飛び級生はSやMといった特殊クラスに振り分けられるはず。だが、ティアの名前は——


「ティアリア・アルバレート……Aクラス!」


 ティアは思わず小さな声を上げ、持っていた手袋を落としそうになった。リルセリアが驚いて振り返る。


「えっ?ティアが、Aクラス?まさか、特別配慮?でも……」


 公爵家への配慮としても不自然な、このAクラスへの配属。


 ティアの脳裏には、飛び級の面接で彼女の純粋な魔力に驚愕しつつ、にやりと笑っていたオルセン教授の顔が一瞬浮かんだが、今はどうでも良かった。


(お姉様と同じ……!)


 ティアは人目をはばからず、リルセリアの制服の袖をぎゅっと掴んだ。


「お姉様!わたくし、お姉様とおんなじクラスよ!う、うれしい……!」


 この学園は、ヴァルドの魔力が巣食う危険な舞台だ。だからこそ、リルセリアと常に行動を共にできるという事実は、何よりも大きな安堵だった。


 リルセリアも目を丸くした後、優しく微笑み、ティアの頭を撫でた。


「ふふ、じゃあ、毎日一緒ね。よかったわ、ティア」


 この一瞬の温かさこそが、ティアの戦いの、かけがえのない動機だった。


 教室に入ったティアは、すぐにその温かい感情を打ち消した。


 Aクラスの担当教官は、中年で瘦せ型、常に神経質そうな笑みを浮かべたロレンツォ魔術教官だった。


 ティアがロレンツォを見た瞬間、入学式で学園全体から感じた低音の「不協和音」が、彼の魔力から発生していることを特定した。


(ビンゴよ……。あの男が、ヴァルドの駒……!)


 ロレンツォは、王太子の婚約候補者であるリルセリアに近づき、愛想の良い笑顔を振りまいている。リルセリアは婚約候補者としての重圧か、疲れたようにそれを受け流していた。


◇◇◇◇◇


 その日の午後、ティアは飛び級生対象の特殊な魔術理論補講に出席した。その講師こそ、オルセン教授だった。


 白髪を無造作に束ね、丸い眼鏡をかけたオルセン教授は、講義が始まるや否や、奇妙な身振りで空中を漂う魔力の結晶を操り始めた。


「ほっほっほ!諸君、魔術とはね、愛と純粋さ、そして何よりも遊び心じゃよ!」


 彼の魔力は、ヴァルドのそれとは正反対の、清らかで、複雑な美しさを持っていた。ティアの感覚では、オルセン教授の周囲の魔力だけが、学園全体に蔓延する「不協和音」を完全に拒絶し、澄んだ領域を築いているのが分かった。


 講義中、オルセン教授は生徒全員に魔力の基礎操作を行わせたが、ティアの番が来たとき、教授は丸眼鏡をキラリと光らせた。


「ふむ、ティアリア嬢。君の魔力は実に素晴らしい。どこまでも澄み切っていて、まるで王家の血族が持つ純粋な魔力のようだ。こんなに美しい魔力は、この学園では久しぶりに見たわい!」


 教授はティアの極めて高い魔力の純度を、あっさりと見抜いたのだ。しかし、その賛辞に悪意や下心は一切感じられない。ティアは直感した。この教授は、信頼できる。


◇◇◇◇◇


 放課後、レオンハルトと秘密裏に合流したティアは、ロレンツォ教官とオルセン教授の情報を報告した。


「オルセン教授の純粋な魔力は、ヴァルドの魔力を寄せ付けないわ。彼は、私を助けてくれるかもしれない」


 レオンハルトは、ティアの直感を信じた。


「よし。僕が卒業するまで残り一年。プランを立て直すぞ。まず、ロレンツォは無視できない。彼は確実にリルセリアを狙ってくる」


 レオンハルトはティアの肩に手を置いた。


「ティア。ロレンツォの動きを追って、奴がどこからヴァルドの魔力を得ているかを探れ。同時に、オルセン教授との信頼関係を築け。僕の最後の任期で、君の安全地帯を確保する」


 秘密の調査と、リルセリアを守るための熾烈な学園生活が、いよいよ本格的に始まったのだった。


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