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悪役令嬢にされたお姉様が○○されるのを断固阻止します!  作者: 夜宵
第四章 深紅の執着と、金色のイレギュラー

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番外編:配当(笑顔)の私的利用は禁じます! ~愛は最も非効率な利益~』

本編終了後、2年程経過した頃のお話。

 王城の夜会は、眩いばかりのシャンデリアの光と、着飾った貴族たちの欲望で満ちていた。

 学園を無事卒業して21歳を迎え、凛々しい当主代行として社交界に本格デビューしたルイスフォルテは、今や「独身令嬢たちが最も狙いたい男」の筆頭に躍り出ていた。


「ルイスフォルテ様、今度我が家の領地へ遊びにいらっしゃいませんか? 素晴らしい狩場がありますの」

「まあ、ルイスフォルテ様。先ほどのダンス、とても情熱的でしたわ。次はぜひ、テラスで夜風を……」


 令嬢たちに囲まれ、困ったように、けれど誠実な笑みを浮かべて対応するルイスフォルテ。かつての自信のなさは消え、磨き上げられた原石のような輝きを放つ彼に、会場中の視線が突き刺さっている。


 その様子を、会場の端で「般若はんにゃ」のようなオーラを出しながら見つめる17歳の少女がいた。


「……ナターシャ。あの令嬢たち、市場価値というものを理解しているのかしら。あんな安っぽい誘い文句で、私のルイスが動くとでも?」


 手にした扇子をミシミシと鳴らしながら、ティアリアが毒を吐く。


「……ティアリア様。お言葉ですが、ルイスフォルテ様は現在『フリー』です。他家の令嬢がアプローチするのは、社交界のルール上、極めて正当な投資行為と言えますよ? 早く捕まえないと、横からかっさらわれちゃいますねぇ」


 助手であるナターシャは、主人の心情を察してニヤニヤと笑いながら、わざと火に油を注いだ。


「……っ! 私がどれだけの時間をかけて、あの猫背を直し、会計学を叩き込み、魔術経路を語り、一級品の男に仕上げたと思っているの!? 投資したのは私ですわ! 配当(笑顔)を受け取る権利も、すべて私にあるはずです!」


 そこへ、一人の年上の公爵令嬢がルイスの腕に手を絡め、ティアリアの方をチラリと見て勝ち誇ったように笑った。


「ルイス様、あちらにいらっしゃる『可愛い妹分』は、もうおネムの時間ではなくて?」


 ブチッ。

 ティアリアの中で、何かが音を立てて切れた。


「……ナターシャ、見ていなさい。資本主義の恐ろしさを、あの無能な女たちに教えてあげますわ」

「いってらっしゃいませ、ティアリア様! 応援してますよ!」


 ナターシャの楽しげな声を背に、ティアリアはドレスの裾を翻した。その足取りは優雅だが、放たれる威圧感は完全に「獲物を狩る捕食者」のそれであった。


 令嬢たちの輪を氷のような視線で割り込み、ティアリアはルイスフォルテの腕を強引に引き寄せた。


「そこまでですわ、皆様。……ルイスフォルテ様、本日貴方に与えられた『自由時間』は、たった今終了いたしました」

「え……あ、ティアリアさん!? 急にどうしたの……」


 驚くルイスフォルテを無視し、ティアリアは周囲の令嬢たちへ、冷徹な微笑みを向けた。


「この方は現在、アルバレート公爵家と『独占的な技術提携』の最中ですの。他所の脆弱な資本が介入する余地はありませんわ。……さあ、ルイス、テラスへ。報告書の修正案について、じっくりと、夜が明けるまで話し合いましょうか」

「修正案……? さっき完璧だって言ったばかりじゃ……わわっ!」


 ずるずると引きずられていくルイスフォルテ。


 それを見送りながら、ナターシャはグラスを掲げて独りごちた。


「……ふふ。お嬢様、あれ絶対『修正案』なんてありませんよね。ご愁傷様です、ルイスフォルテ様」


◇◇◇◇◇


「……さあ、ルイス。報告書の修正案について、じっくりと、夜が明けるまで話し合いましょうか」


 氷点下の微笑みを湛えたティアリアに引きずられ、ルイスフォルテは社交界の猛女たちの群れから救い出された……もとい、さらわれた。


 辿り着いたのは、人影のない月明かりのテラス。


 ティアリアはルイスフォルテの腕を離すと、肩で息をしながら、刺すような視線を彼に向けた。


「……ティアリアさん、あの、さっきの『修正案』って一体――」

「黙りなさい、この不良債権!」


 ティアリアの怒鳴り声に、ルイスフォルテは肩を跳ねさせた。


「不良債権……!? 僕、そんなにひどいミスをしたかな」

「ミス? ええ、大ミスですわ! 貴方は自分がどれほど価値のある『商品』になったか自覚が足りません! あんな、事業計画もまともに立てられないような女たちにヘラヘラと配当(笑顔)を振り撒いて……! 私の、私だけの投資でここまで仕上げたルイスフォルテに、勝手に触れさせるなんて、損失以外の何物でもありませんわ!」


 ティアリアの瞳には、怒りと、そして隠しきれない情動が揺れていた。17歳。体も心も女性らしく成長した彼女だが、中身が大人である分、素直になれないプライドが彼女を雁字搦めにしている。


 そんな彼女を、ルイスフォルテは眩しそうに見つめた。21歳になった彼は、ティアリアの鋭い言葉の裏にある「本音」を、以前よりずっと深く読み取れるようになっていた。


「……ねえ、ティアリアさん」


 ルイスフォルテは一歩、彼女との距離を詰めた。


「……そんなに怒るなら、早く僕を『婚約者』という鎖で縛ってくれればいいのに」

「なっ……ななな、何を、不敬なことを!」

「僕は待っているんだよ。モンフォールの経営が安定して、君に『利益』をもたらすと証明できるまで、プロポーズは我慢しようって。でも……」


 ルイスフォルテはティアリアの細い肩に手を置き、逃げられないようにテラスの欄干へと彼女を追い込んだ。かつての猫背の少年はもういない。そこにあるのは、獲物を見据える、大人の男の瞳だった。


「……君にそんな顔をされたら、もう限界だ。損害賠償なら、僕の人生すべてをかけて支払わせてもらっていいかな?」

「ル、ルイス……」


 ティアリアの言葉が、彼の唇によって塞がれた。月光の下、二人の影が重なる。


 それは契約書へのサインよりも、ずっと確かな「独占」の儀式だった。


◇◇◇◇◇


 翌朝。アルバレート公爵家のサロンには、賑やかな声が響いていた。


「ええっ!? じゃあティア、ルイスフォルテ様に自分から乗り込んでいったの!?」


 リルセリアが目を輝かせ、身を乗り出す。


「はい、リルセリア様! まさに『獲物を狙う鷹』のようでしたわ。あんなに余裕のないお嬢様、初めて見ました!」


 ナターシャが、昨夜のティアリアの威圧感を身振り手振りで再現し、レオンハルトとリルセリアを笑わせている。


「ほう。あのルイスフォルテも、ようやく男を見せたということか。……少しは骨があるようになったな」


 レオンハルトが、どこか満足げに、カサンドラと視線を合わせる。


「……ナターシャ。貴女、その口を閉じないと、給与から昨夜のドレス代を天引きしますわよ」


 サロンの入り口で、ティアリアが顔を真っ赤にして立ち尽くしていた。


 その胸元には、ブローチだけでなく、指先には新しく贈られた、眩いばかりの婚約指輪が光っている。


「あら、お嬢様! お目覚めですか! おめでとうございます、『独占契約』無事に締結完了ですね!」

「だ、黙りなさいっ……!!」


 公爵家に響き渡るティアリアの怒号と、幸せそうな笑い声。


 彼女の計算外だったのは、投資の成果として手に入れたのが、想像以上に自分を翻弄する「愛」という名の莫大な利益だったこと。


 アザレアの風が、二人の門出を祝うようにサロンを吹き抜けていった。

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