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悪役令嬢にされたお姉様が○○されるのを断固阻止します!  作者: 夜宵
第三章 至宝の輝きと、鉄壁の守護者

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46:至高のドレスと、家族の絆

 婚約式を数日後に控えた、アルバレート公爵邸。


 シエルの持ち込んだ『月の銀糸』、リディアが選定した『極光の宝石』、そしてティアリアが組み込んだ『幻惑の魔導回路』。さらに、テオドールが地下で執念の研磨を終えた『金剛亀の涙』。


 王国最強の情熱が結集した、もはや「伝説の武具」に近い一着がついに完成した。


 大広間に、重厚なカーテンで仕切られた着替えスペースが設けられた。


 カーテンの前で、シエル、テオドール、レオンハルトの三人が、まるで行軍前の騎士のような緊張感で待機している。


「……遅い。リルセリア、まだか」

「殿下、落ち着きなさい。……ぐぬぬ、万が一シエル殿下の趣味に染まりすぎていたら、私はその場でドレスを切り裂くぞ」

「父上、物騒なことを言わないでください……。あ、開きますよ」


 レオンハルトの声と共に、カーテンがゆっくりと引かれた。


 そこに立っていたのは、月光をそのまま織り上げたような銀のドレスを纏ったリルセリアだった。


 ティアリアの魔導回路が作動し、彼女が動くたびに、ドレスの宝石が星屑のように瞬く。リディアがこだわったシルエットは、リルの清廉さを女神の如き神々しさへと昇華させていた。


「……あ」


 シエルが、初めて言葉を失った。常に理路整然と「フライング」を正当化してきた王太子が、ただ呆然と、愛しい人を見つめて立ち尽くしている。


「……美しい。私の想像など、これっぽっちも追いついていなかった……」

「リ、リ、リル……あああ、我が娘ながら、なんという……! 天使だ、天使がここにいるぞ!」


 テオドールは感動のあまり膝から崩れ落ち、盛大に鼻血を吹いてベネディクトに抱えられた。レオンハルトもまた、「これは……警備を百人増やさないと、暴動が起きるな」と、事務的な感想を装いつつ、妹の美しさに目を細めていた。


◇◇◇◇◇


 婚約式の準備は着々と進み、婚約の儀はもう明日。


 リルセリアは一人、自室でドレスの裏側に縫い付けられた「小さな膨らみ」に触れていた。そこへ、少し落ち着いたテオドールが、照れくさそうにノックをして入ってきた。


「リル。……その、ドレスの胸元の裏にな、石を仕込ませてもらった」

「はい、お父様。ティアから聞きました。お父様が一生懸命、わたくしのために磨いてくださったって」


 テオドールは、リルの前に座り、その小さな手を包み込んだ。


「それは、見た目だけの飾りじゃない。お前がどこへ行こうと、何があろうと、お前を物理的に守り抜く、私からの分身だ。……シエル殿下は強い男だが、親としてはな、それでも心配なのだ」

「お父様……。ありがとうございます。わたくし、この石と一緒に、胸を張って殿下の隣に立ちますわ。アルバレートの娘として、お父様の誇りになれるように」


 リルの優しい微笑みに、テオドールは再び涙ぐみ、

「……ああ、嫁にやりたくない! 私のリルセリア、行かないでおくれ、結婚なんてまだ早すぎる……!」


 膝をついて号泣し始めたテオドール公爵に、リルセリアは困ったように、けれど愛おしそうに微笑んだ。そこへ、背後から冷ややかな声が響く。


「……お父様、いい加減にしてください。明日の儀式はあくまで『正式な婚約』ですわ。お姉様が実際に王宮へ嫁ぐのは、学園を卒業してから。つまり、あと4年は先の話です」


 現れたのは、翌日の進行表を厳しくチェックしていたティアリアだった。テオドールは鼻をすすりながら、間抜けな顔で娘を見上げた。


「……よ、4年? なぜそんなに長いのだ?」

「お姉様はまだ国立魔法学園の2年生に進級したばかりですわ。卒業まであと4年。シエル殿下は4年生ですから、来年一足先に卒業されますが、お姉様を連れていく権利はまだ発生しません。……レオンハルトお兄様のように、卒業してすぐに『実務の山』に放り込まれることもないでしょうから、安心なさい」

「……ティアリア、私のことは引き合いに出さないでくれ。卒業した瞬間にこの婚約式の事務作業を全権委任されている私の身にもなってほしい」


 いつの間にか背後に立っていたレオンハルトが、目の下の隈をさすりながら力なく呟いた。


「な、なんだ……そうか! あと4年、1400日以上も、私は毎朝リルに『いってらっしゃい』が言えるのか! ガハハ、なんだ、それならもっと早く言ってくれ! 4年もあれば、あのアホ皇太子からリルの心を繋ぎ止めるための『お父様大好き大作戦』を4000通りは実行できるではないか!」


 現金なもので、テオドールは即座に立ち上がり、涙を拭って腰に手を当てた。


「よし! ベネディクト、顔を洗ってくる! 明日の式では、私が誰よりも堂々とリルの横を歩き、あのアホ王太子に『あと4年は実家にいてもらうからな。手出しは無用だ!』という父親の絶対的な権利を見せつけてやらねばならんからな!」


 鼻息荒く去っていく父の背中を見送り、リルセリアはクスクスと笑いながらティアリアの手を取った。


「ふふ、ティア。ありがとう。……でも、4年なんて、きっとあっという間ですわね。レオンハルトお兄様も、卒業したばかりなのにこんなに忙しそうですし……」

「お姉様が寂しさを感じる暇もないほど、私の『特別訓練』も、お母様との淑女教育も詰め込んで差し上げますわよ。……お兄様、式典の警備計画の最終確認、書斎でお願いしますわね」

「……ああ、わかった。卒業しても、私の主人はティアリア、君のままのようだな」


 レオンハルトは苦笑しながらも、どこか誇らしげに妹たちの背中を見つめていた。


◇◇◇◇◇


 家族が寝静まった深夜。公爵邸の厨房では、二つの人影が向かい合っていた。


 ベネディクトとナターシャである。テーブルの上には、書き込まれすぎて真っ黒になった工程表と、冷めたハーブティー。


「……ようやく、全工程が完了しましたね、ベネディクトさん」


 ナターシャが、くたっとテーブルに突っ伏した。


「警備配置、来賓の座席、ドレスの魔導調整……。私、魔法学園の試験より勉強した気がします」

「お疲れ様でした、ナターシャ殿。貴女の正確な計算がなければ、ティアリア様の無茶な演出計画は瓦解していたでしょう。……これは、本日分の『残業報酬』です」


 ベネディクトが差し出したのは、いつものミントチョコ。だが今日は、彼が自分の分として持っていた最後の一箱だった。

「わあ……! ありがとうございます。……ねえ、ベネディクトさん。今回の婚約式、楽しみですね。あんなに幸せそうなリルセリア様を見ていたら、なんだか、私たちまで報われた気持ちになります」

「……そうですね。事務作業(苦労)の果てに、あのような光景が見られるのであれば……悪くない仕事です」


 冷徹な侍従の口元に、ほんの僅かな笑みが浮かぶ。


 それを見て、ナターシャもまた、甘いミントの香りに包まれながら幸せそうに笑った。


 嵐のような準備期間が終わり、ついに明日は、運命の婚約式。

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