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悪役令嬢にされたお姉様が○○されるのを断固阻止します!  作者: 夜宵
第三章 至宝の輝きと、鉄壁の守護者

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28:不本意なる共同戦線

 司教たちがティアリアの正論に叩き出されてから、わずか三日後のことだった。


 再び公爵邸の門を叩いた彼らの手には、前回とは異なる「紙」が握られていた。


「――王宮魔導院、および枢密院の連名による『聖女警護に関する協力要請書』です。いかに公爵家といえど、国の中枢が下した判断を無下にはできますまい?」


 司教は勝ち誇ったような笑みを浮かべ、ティアリアの前に書類を突きつけた。ティアリアはそれを一瞥し、内心で舌打ちをする。


(……早いわね。ヴァルドが消えて、宮廷魔導師の権威が落ちている隙を突いて、上層部を丸め込んだのかしら)


 書類の内容は、教会の「聖女守護騎士団」を、公爵邸および王宮での警護に試験的に参加させるというものだった。事実上の、カサンドラによる「監視付き駐在」の許可証である。


「……というわけだ。魔術師団長補佐」


 司教の背後から、カサンドラが重厚な甲冑の音を響かせて前へ出た。彼女は無表情なまま、書類仕事で目の下に濃い隈を作っているレオンハルトを見据える。


「今日から私はこの屋敷に留まり、リルセリア様の傍で不測の事態に備える。……直ちに私の執務スペースと、騎士団との連絡用個室を用意してもらおう」


「……本気か? 我が家は今、ただでさえ人手が足りず、客室の管理もままならない状況なんだが」


 レオンハルトが力なく反論するが、カサンドラはぴしゃりと言い放った。


「貴殿の都合など知らぬ。それが『補佐官』の仕事だろう。……それとも、女一人に与える部屋も用意できぬほど、この公爵邸は困窮しているのか?」


「くっ……。分かった、用意しよう。ティア……、すまないが、彼女の魔力登録の申請だけは通しておいてくれ。勝手に結界を弄られてはたまらん」


 お兄様の情けない(けれど現実的な)依頼に、ティアリアは溜息をついた。


「承知いたしましたわ、お兄様。……カサンドラ様。当家には当家のルールがございます。もし、お姉様に不必要に接触したり、私の研究の邪魔をするようであれば、たとえ枢密院の許可があっても、その鎧ごと結界の隙間に放り込みますから、そのおつもりで」


 ティアリアの冷ややかな宣告に、カサンドラは不敵に口角を上げた。


「――面白い小娘だ。……せいぜい、私にその隙を見せないことだな」


 だが、この混乱に乗じるように、隣国からの「表敬訪問」という名の刺客が、刻一刻と王都に近づいていたのである。


◇◇◇◇◇


 カサンドラの駐在が決まった日の夕食会。


 アルバレート家の食卓には、いつにも増して奇妙な緊張感が漂っていた。


「……というわけで、お父様。教会のカサンドラ様が、お姉様の警護のためにしばらく当家へ滞在されることになりました」


 ティアリアの紹介を受け、カサンドラは椅子から立ち上がり、公爵夫妻に向かって深々と、しかし一切の隙なく礼を尽くした。


「聖女守護騎士団のカサンドラ・フォン・ベルシュタインです。……リルセリア様の安全のため、この身を捧げる所存です」


 その言葉を聞いた瞬間、ランドール公爵のフォークが止まった。


「ほう。……ところでカサンドラ君。君の言う『安全』には、『変な虫(男)を寄せ付けないこと』も含まれているのかな?」

「……はい?」


 カサンドラが面食らったような声を出す。すかさずリディア公爵夫人が、穏やかな笑顔で追撃した。


「そうよ。特にシエル殿下といえど、リルの休養を邪魔するようなら、厳しく追い払ってくださって構わないわ。それが『守護騎士』の務めでしょう?」


「え、ええ……。不純な接近は、当然排除いたしますが……」


 教会の威信を背負って乗り込んできたはずのカサンドラだったが、公爵夫妻の常軌を逸した親馬鹿ぶりに、早くも調子を狂わされていた。


 一方、当のリルセリアは、不安そうにカサンドラを見つめていた。


「カサンドラ様……。わたくし、教会のことはよく分かりませんけれど、貴女がお仕事で大変なのは分かります。……どうか、無理をなさらないでくださいね?」


 リルセリアの清らかな瞳と、聖魔力が無意識に放つ柔らかな波動。


 それを受けたカサンドラの背筋が、一瞬ビクンと震えた。


「――っ。……お、お気遣い、痛み入ります」

(……何だ、この清冽な気配は。これが、本物の聖なる力……?)


 カサンドラは、リルセリアを「管理対象」として見ていた自分を、一瞬で恥じるような感覚に襲われた。


 そんな中、一人だけ現実と戦っている者がいた。


 レオンハルトである。


「父上、母上。カサンドラ殿の歓迎も結構ですが、彼女の分の魔法認証キーの発行と、教会への定期報告の検閲ルートの構築、それから……」

「レオンハルト、食事中に仕事の話は野暮だよ」


 ランドール公爵の冷たい一言に、レオンハルトはガックリと肩を落とした。


 ティアリアはその様子を眺めながらリルセリアと視線を交わす。


(お姉様の聖なる力は、あの鉄の女すら動揺させるのね。……でも、お兄様の仕事がまた増えたのは確かだわ)


 こうして、公爵家、教会、そして多忙すぎる魔術師団長補佐を巻き込んだ、波乱の共同生活が本格的に始まったのである。

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