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悪役令嬢にされたお姉様が○○されるのを断固阻止します!  作者: 夜宵
第三章 至宝の輝きと、鉄壁の守護者

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27:静寂を破る教会の来訪

 ヴァルド・エインズワースの失脚は、王宮の魔術体制に激震をもたらした。


 トップが禁術に手を染めていた「宮廷魔導師」という組織は、事実上の機能不全に陥った。その尻拭い――王宮の結界維持や魔術犯罪の事後処理――の大部分が、ランドール公爵率いる「魔術師団」へと一気に雪崩れ込んできたのである。


 その混乱の最中、ティアリアは史上最年少の「宮廷魔導師」に任命された。組織を浄化し、立て直すための象徴、そして実力者として。


 一方、兄のレオンハルトも、爆発的に増えた事務と現場の調整を担うべく、父ランドール公爵から「魔術師団長補佐」の座に無理やり押し込まれた。


「……父上。宮廷魔導師側から回ってきたこの未処理案件、今日中に終わらせるのは物理的に不可能です」

「何を言うかレオンハルト。お前は私の自慢の息子だろう? 私はリディアと、リルのお祝いのドレスを選びに行かねばならんのだ。これも団長としての大切な『公務』だ」


 公爵邸の執務室。書類の山に埋もれたレオンハルトは、親馬鹿を爆発させて去っていく父の背中を見送り、天を仰いだ。最近の彼は、王宮に自室を持った妹ティアリアの元へ逃げ込み、助手のナターシャに泣き言を聞いてもらうのが唯一の休息となっていた。


 しかし、そんなアルバレート家の「忙しくも平和な日常」を切り裂くように、彼らはやってきた。


 ――聖教会の司教、そして銀の甲冑を纏った一人の女騎士。


「公爵令嬢が放ったあの『未知の輝き』。教会はあれを、聖なる力の顕現であると判断しました。調査と保護のため、彼女の身柄を教会へ移送していただきたい」


 公爵邸の客間に響いた司教の厚かましい要求。リオンハルトと共に話を聞いていたティアリアの瞳が、氷のように冷たく冴える。


 司教の背後で、女騎士――カサンドラは、多忙で隈の浮いたレオンハルトを軽蔑するように見据えていた。


「魔術師団長補佐。貴殿のような温室育ちの軟弱な貴族に、あの尊き力の管理は務まらぬ。――我ら『聖女守護騎士団』が引き取りましょう」


 カサンドラの挑発的な一言。


 その瞬間、ティアリアは手にしたティーカップを静かに皿へ置いた。カチリ、という小さな音が、反撃の合図だった。


「――保護、ですか?」


 ティアリアは低く、鈴の音のように澄んだ、けれど背筋が凍るほど冷ややかな声で繰り返した。彼女はゆっくりと視線を上げ、司教を真っ向から見据える。


「司教様。王国法第十二条、および王室魔導憲章を失念されたのですか? 『王国内で発現した未知の魔力現象の管理権は、第一に宮廷魔導師、第二に王室が有する』。教会の介入が許されるのは、それが公的に『神聖魔法』と認定され、かつ本人の同意がある場合のみです。――今の貴方の発言は、王権への不当な介入、あるいは宣戦布告と受け取ってもよろしいのかしら?」

「なっ……! いや、それはあくまで一般的な魔術の話であって、あの神々しい光は……」


 狼狽する司教の言葉を、ティアリアはぴしゃりと遮った。


「『神々しい』というのは貴方の主観に過ぎませんわ。宮廷魔導師としての私の解析では、あれは極めて高密度な多属性混合魔力の一種。調査が必要だと言うのなら、現職の宮廷魔導師である私がここで行っています。部外者の出る幕ではありませんわね」


 ティアリアの全身から、微かに、けれど鋭利な刃物のような魔圧が漏れ出す。客間の空気が物理的に重くなり、司教の額から脂汗が流れた。


 そこへ、沈黙を守っていたカサンドラが、一歩前に出て剣の柄に手をかけた。


「……口の減らない小娘だ。理屈はどうあれ、貴様らのような欲にまみれた貴族に、あの無垢な光を守れるはずがない。守護の任は、我ら信仰を捧げし騎士にこそ相応しい」


 カサンドラの放つ殺気に近い威圧。だが、ティアリアは瞬き一つせず、鼻で笑った。


「『守れるはずがない』? おかしいですわね。ヴァルドが王宮を蝕んでいた四十年間、その信仰深き騎士団様は一体どちらで何をなさっていたのかしら? 結界が破られ、殿下が危機に陥っていた時、お姉様の隣で戦っていたのは――そこにいる、疲れ果ててはいますが、不眠不休で職務を全うしている私の兄ですわ」


 ティアリアがスッと手を示した先には、いつの間にか書類を置き、カサンドラを真っ直ぐに見据えるレオンハルトの姿があった。


「カサンドラ殿。貴殿の懸念は理解するが、我が公爵家は、身内を他人に売り渡すほど落ちぶれてはいない。……不当な連行を強行するつもりなら、魔術師団長補佐として、不法侵入と公務執行妨害で即刻拘束させていただくが?」


 レオンハルトの声には、普段の疲れを感じさせない、公爵家嫡男としての重厚な響きがあった。


「くっ……。あくまで、抵抗すると言うのだな」


 カサンドラが悔しげに奥歯を噛み締める。ティアリアは優雅に最後の一口の紅茶を飲み干し、司教に向かって冷たく微笑んだ。


「お引き取りを、司教様。お姉様……『リルセリア』に会わせることも致しません。どうしてもと言うのなら、教皇閣下の親筆による正式な要請書を持って、改めて王宮の受付へお越しくださいな。――あ、受付は現在非常に混み合っておりますので、三ヶ月後くらいがよろしいかと思いますわ」

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