22:守りの魔石と、最後の調査
ヴァルドの直接攻撃を受け、ティアは家族全員の安全を確保する必要性を痛感した。彼女はオルセン教授の研究室に籠もり、ナターシャを助手として迎えた。
「ティアリア様、オルセン教授のこのアンプル、魔術の反作用を誘発するだけでなく、精神的なノイズを遮断する効果も持っているのですね」
「ええ、ナターシャ。これに防御の魔石を組み合わせるわ」
ティアは、教授の魔力迷彩アンプルを精製し、防御と純粋さの魔力を注ぎ込んだ小さな魔石にコーティングした。その際、最も純粋な防御魔力を得るため、リルセリアの清らかな魔力を込めてもらった。
ナターシャが支配下にあった経験から、精神魔術の遮断が最優先だった。
「ナターシャはこれを。ヴァルドの精神魔術の影響を完全に遮断できるわ」
「ありがとうございます、ティアリア様。これで、私も心置きなく協力できます」
ティアとレオンハルト、ランドール公爵、リディア公爵夫人は、直ちにその魔石をピアスとして装着した。このピアスは、外見は美しい宝飾品だが、その内部にはヴァルドの魔術に対抗する公爵家の防壁が築かれていた。
そして、リルセリアにも、ティアは優しい嘘をついてピアスを渡した。
「お姉様、お母様が社交界で流行る最新のデザインをわたくしたち家族みんなで揃えたいって。お姉様にもつけてほしいの」
「とても可愛いわ。みんなでお揃いなんて素敵ね」
リルセリアは、何も知らずに喜んでピアスを装着した。その愛らしい姿は、ティアにとって何よりも守るべき光だった。
リディアは、娘たちのピアスを見て、すぐにその戦略的価値を見抜いた。
「この美しい魔石……。ヴァルドの監視から私たち家族を守る壁なのね」
リディアは、そのピアスを社交界で流行らせた。公爵夫人やその娘が身につける最新の装飾品は即座に話題となり、公爵家とその関係者の間で、同じデザインのピアスが広まっていった。
(これであの男が、社交界の場で私たち家族や、私たちの関係者に安易に手を出すことはできないわ。公爵家の無形の防御結界よ)
公爵家は、社交という表舞台でも、ヴァルドへの静かな牽制を開始した。
◇◇◇◇◇
公爵家の権力と情報網が動き出したことで、調査は劇的に加速した。
ランドールは、魔術師団長としての権限で、ヴァルドの宮廷魔導師長としての権限の境界線を洗い出した。
一方、ティアとナターシャは、オルセン教授の研究室で、ナターシャの提供した情報に基づき、ヴァルドがシエルに送っていた「秘密の魔術具」の魔力パターンを解析した。
「ランドール公爵様からの情報によると、ヴァルドは『王城の地下図書館』を長年にわたり、私的な研究室として占有しています」レオンハルトが報告した。
「そこだわ!」ティアは、解析図を指さした。
「ナターシャ、あなたは正しかった。殿下に送られていた魔術具から発せられる魔力の残渣は、学園とは比べ物にならない巨大な魔力炉に接続されているわ」
ティアは、その魔力炉こそが、ヴァルドの「四十年間の支配の魔術」の真の根源であり、シエル皇太子を直接支配する魔力の出所であると断定した。
「私たちが破壊すべきは、王城の地下、ヴァルドの研究室にある魔力炉よ。そこを破壊すれば、ヴァルドの魔術支配は、全ての基盤を失うわ」
最終決戦の目標が、ついに定まった。




