20:公爵家の総力結集と、愛ゆえの秘密
その夜、アルバレート公爵家は重苦しい空気に包まれていた。ティアとレオンハルトは、魔術師団長でもあるランドール・アルバレート公爵と、社交界の華であるリディア・アルバレート公爵夫人の執務室で、二人を前に膝詰めで座っていた。
「……信じられない話だとは思います」
レオンハルトは、そう前置きし、ロレンツォの連行、ヴァルドの陰謀、シエルの支配といった、学園で起こった全ての出来事を、詳細に、そして冷静に報告した。
ランドールとリディアは、驚愕の表情で、息を呑んで聞いていた。
「そして、この陰謀の全ての原因、そしてわたくしが魔力を隠していた理由……」
ティアは震える声で告白した。
「それは、わたくしが『前世の記憶』を持っているからです」
ティアは、前世でリルセリアが悪役令嬢として破滅したという悲劇の結末、そしてヴァルドがその黒幕であったことを全て打ち明けた。
沈黙が、執務室を支配した。ランドールは、顔を覆い、深く息を吐いた。
「……前世の記憶。魔力の偽装。リルセリアが、その陰謀の犠牲に……」
真っ先に立ち上がったのは、リディアだった。彼女はティアの前に跪き、娘の手を握りしめた。
「ティア。あなたは、たった一人で、その重荷を背負っていたのね。よく頑張ったわ。あなたの魔力が、どれほど強大か、私たちは知っていた。それを、家族を守るために隠し通していたなんて……」
ランドールも、静かに立ち上がった。彼は、ティアとレオンハルトの肩に手を置いた。
「息子よ、娘よ。証拠は揃っているな。ロレンツォの金銭不正、そしてヴァルドの魔術的な関与の証拠は?」
「はい、お父様」レオンハルトは、財務記録の写しと、オルセン教授の解析図を提出した。
ランドールの瞳には、家族を守る者の厳格な光が宿った。
「わかった。これは、私たち家族だけの問題ではない。王室の根幹に関わる、由々しき事態だ。君たち二人だけでは、ヴァルドの権力には抗えない。公爵家が、総力を挙げて動く」
その後、ティアはリルセリアへの対応について、両親とレオンハルトに相談した。
「お父様、お母様。わたくしたちがこれからヴァルドと戦うことを、お姉様には、まだ打ち明けるべきでしょうか?」
リディアは、少し考えて首を横に振った。
「いいえ。ロレンツォの件で、リルはまだ傷が深い。シエル殿下が再び支配下に置かれれば、彼女はまた心を痛めるでしょう。そして、今、ヴァルドの標的はあなたになった。リルセリアが真実を知れば、あなたを心配し、かえって足手まといになる可能性があります」
「お母様の言う通りだ」レオンハルトも賛同した。
「リルには、『ロレンツォの不正が発覚し、殿下は一時的に療養に入った』という、公爵家が用意した優しい情報だけを伝える。彼女には、ただ安らぎを与えてやろう」
ティアは、姉への愛情と、作戦の遂行という両方を鑑み、その意見を受け入れた。
「わかりました。真実を話さないのは心苦しいですが、お姉様の笑顔を守るために、わたくしたちの秘密といたします」
◇◇◇◇◇
決断が下された。
ランドールは、王国の裏のネットワークと、公爵家に忠誠を誓う古参の貴族たちに接触を開始した。ロレンツォの自白と、金銭の不正の証拠をちらつかせ、ヴァルドへの包囲網を静かに張り巡らせていく。
リディアは、貴族社会のサロンに出向き、ヴァルドの信用を貶める根回しを開始。同時に、リルセリアの精神的な回復を支える安息の環境を徹底的に整えた。
ティアは、レオンハルトと共に、オルセン教授との連携をさらに強化し、ヴァルドの魔術の根源を探る最後の調査を開始した。
公爵家という王国の柱が、愛する家族と王国の未来を守るため、ついに動き出したのだっ




