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悪役令嬢にされたお姉様が○○されるのを断固阻止します!  作者: 夜宵
第二章 学び舎の影と、覚醒の輝き

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19/29

19:悪魔の誘惑と、公爵家の決断

 オルセン教授の研究室で、ヴァルド・エインズワースがティアの前に現れた。


「ロレンツォ教官を崩壊させたのは、君の異常な才能だろう。そのおかげで、彼が抱えていた些細な金銭トラブルは片付いた。実に優秀だ」


 ヴァルドは、ロレンツォの公開処刑を単なる金銭トラブルと矮小化し、既に全てを握り潰したことを誇示した。


「驚いたかね?公爵家の次期当主である君の兄が動いても、王立魔術院の公式記録を覆すことはできない。なぜなら、この国の魔術の根幹は、全て私の下にあるからだ」


 ヴァルドの言葉は、傲慢さと自信に満ちていた。


(この人には、個人的な魔術だけでは勝てない。権力と、国のシステム全体を支配している……)


 ティアは、ヴァルドの魔力と、背後に存在する強大な権力を理解し、体が硬直するのを感じた。


「私は、愚かな公爵令嬢を守るために、私自身の才能を使うつもりはございません」ティアは、リルセリアを貶めるヴァルドの言葉に、怒りを込めて答えた。


「ホッホッホ。そうか、愚かな公爵令嬢か」ヴァルドは優雅に笑い、ティアを侮蔑する。


「だが、君は彼女を愛しているのだろう? だからこそ、君の魔力は濁らずに澄んでいる。私と共に来なさい。君の才能は、私にしか引き出せない。くだらない家族の絆や、公爵家の義務に囚われているのは、時間の浪費だよ」


「お断りします」ティアは、視線を逸らさず、断固として拒絶した。「わたくしは、家族の敵に与しません」


 ティアの拒絶の瞬間、ヴァルドの微笑が消えた。その周囲の空気が一瞬で凍りつき、純粋な支配の魔力が、津波のようにティアの精神へ襲いかかった。


「ならば、力で服従させるまでだ」


 それは、ティアがこれまでに感じたことのない、魂を直接踏みにじるような強烈な魔術攻撃だった。


「ぐっ……!」


 ティアは咄嗟に、オルセン教授の防御触媒を身に纏い、自身の魔力を最大限に高めて対抗した。しかし、力の絶対的な差は埋められず、ティアの防御は瞬く間に軋み始めた。


「ホッホッホ。無駄だよ、小娘。君の才能は素晴らしいが、私の四十年間の支配の魔術の前には、児戯に等しい!」


 その攻撃は数秒で終わった。ヴァルドは、ティアに自身の力の絶対性を刻みつけると、攻撃を解いた。ティアは、冷や汗をかき、立っているのがやっとの状態だった。


「良い返事を待っているよ。君の家族と、王太子の命運は、全て君の選択にかかっている」

 ヴァルドはそう言い残し、優雅に扉を閉め、研究室を去った。


 ティアが崩れ落ちる寸前、レオンハルトが駆け込んできた。


「ティア!何があった!? 瞬間的に、学園の魔力結界が悲鳴を上げたぞ!」

「ヴァルドよ、お兄様……。直接、来たわ。そして、わたくし一人では、彼には決して勝てない」


 ティアは、ヴァルドの凄まじい支配魔術の力を思い出し、唇を噛んだ。


「彼の力は、魔術院というシステム全体に根付いている。ロレンツォを失っても、彼はびくともしない。私たち兄妹の力だけでは、手詰まりよ」


 レオンハルトも、ティアの憔悴した様子と、研究室に残る重い魔力から、事態の深刻さを悟った。


「そうか。僕たちだけでは、彼を公的に失脚させることはできない……」


 ティアは、決意を込めた瞳でレオンハルトを見つめた。


「ええ。もう隠し立てはできないわ。私たちの最も強力な味方を動かす時が来た」

「――お父様か」

「はい。お父様に、全てを打ち明けるわ。ヴァルドの陰謀、前世の出来事、そして、私たちの魔力を隠していた理由を全て。公爵家を動かすのよ」


 レオンハルトは、ティアの強い決意を受け止め、力強く頷いた。二人は、公爵家へ緊急に戻るため、学園を後にした。

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