18:再支配と、黒幕の直接接触
ロレンツォ教官の崩壊後、レオンハルトはすぐに、ロレンツォの金銭的な不正とヴァルドの関与を示す証拠(ロレンツォへの不正な送金記録)を、王室の信頼できる貴族へ秘密裏に提出した。
同時に、ナターシャから得た情報に基づき、バレリー男爵家が抱えていた不自然な債務の背後に、ヴァルド傘下の金融機関が関与していたことを突き止めた。
「ヴァルドは、ナターシャ嬢の家門を意図的に経済的に追い詰め、彼女を駒にした。これで証拠は揃った」レオンハルトは告げた。
公爵家の力と、シエルが支配から一時解放された後の「不正調査の勅令」を背景に、レオンハルトはバレリー男爵家への不当な債務請求を無効化させた。
ティアは、安堵したナターシャに言った。
「ナターシャ。あなたはもう、家のことで脅されることはないわ。これからは、あなたの意思で、わたくしたちに協力してほしい」
ナターシャは深く頷いた。
「もちろんです。私の家族を、未来を救ってくださった。ヴァルド様の魔術の痕跡や、宮廷での彼の動きなど、私が知っていることは全てお伝えします」
これでナターシャは完全にティアの情報協力者となり、ティアは宮廷内部に目を手に入れた。
しかし、その喜びも束の間だった。シエルが宮廷に戻ってわずか数日後、リルセリアの元に届いたのは、冷たい形式的な手紙だった。
『公務多忙のため、当面、貴殿との私的な交流を控える』
そして、学園にも、「王太子の健康状態の悪化」という理由で、シエルが長期療養に入ったという報告が入った。
「ロレンツォを失ったヴァルドが、今度は殿下を宮廷内に隔離し、支配をより強固にした証拠ね」ティアは静かに言った。
◇◇◇◇◇
放課後。
ティアがオルセン教授の研究室でナターシャからの情報を整理していると、研究室の扉が、何のノックもなく、静かに開いた。
「ホッホッホ、賢い子よ。君がこの騒動の裏の立役者だとは、すぐに気づいたよ」
入ってきたのは、ヴァルド・エインズワース宮廷魔導師長だった。彼は、ロレンツォのような嫌味な態度は一切なく、完璧に優雅で、威圧的な微笑を浮かべていた。彼の周囲の魔力は、学園の「不協和音」とは比べ物にならない、純粋で、しかし凍てつくような支配欲に満ちていた。
ティアは、体が硬直するのを感じた。
「ヴァルド様……」
「君の魔力は素晴らしい。君のような才能を持つ者が、愚かな公爵令嬢を守るために、こんなところで燻っているのは惜しい」
ヴァルドは、ティアを一瞥しただけで、その恐るべき魔力と知性を完全に理解していた。
「私と共に来なさい、ティアリア嬢。君の才能は、この国の未来を築くためにある。私こそが、君の真の師となるべき者だ」
ヴァルドは、ティアに悪魔の誘惑を仕掛けたのだった。




