14:二重の調査と、禁術の痕跡
レオンハルトは、公爵家跡取りとしての権限と、学園の最高学年としての影響力を行使し、ロレンツォ魔術教官の裏をかき始めた。
彼はまず、学園の裏帳簿と、教師陣の給与明細に焦点を当てた。
(ヴァルドがロレンツォのような駒を使う場合、地位や名誉だけでなく、必ず金銭的な餌を与えているはずだ)
深夜、学園の財務記録室。レオンハルトは、公爵家から派遣されている経理担当者の協力を得て、膨大な書類を精査した。
「……あったぞ」
ロレンツォの給与自体は平凡だったが、彼の名義で、過去二年間にわたり「特別講師謝礼」として、不自然な高額の送金が毎月行われているのを発見した。
「特別講師謝礼? ロレンツォが、そんな外部の講義をしている記録は一切ない」
さらにレオンハルトは、その送金元が、「王立魔術院の研究費」から支払われていることを突き止めた。王立魔術院は、ヴァルド・エインズワース宮廷魔導師長が絶対的な権限を持つ組織だ。
「間違いない。ヴァルドは、公的な名目でロレンツォに資金を流し、裏で魔術の工作をさせている」
レオンハルトは、この送金記録の写しを証拠として懐に収めた。これは、ロレンツォがヴァルドの金銭的な支配下にあることを示す、揺るがぬ物的証拠だった。
◇◇◇◇◇
一方、ティアは、オルセン教授の研究室の奥にある「秘密の実験室」で、ロレンツォの魔力の痕跡を追っていた。
「教授、ロレンツォ教官がリルセリアお姉様に防御結界の訓練を課した際、彼が立っていた場所から、奇妙な魔力の収束点が伸びています」
ティアは、魔力の残渣を分析し、学園の敷地の地下に、何らかの術式の中継点が存在することを示唆した。
オルセン教授は、ティアの描いた複雑な魔力解析図を見て、深く唸った。
「ホッホッホ!やはり君は天才じゃ。これは、君が感知した『不協和音』を学園全体に拡散させるための、中継魔方陣じゃな。ロレンツォはその魔方陣の管理者に過ぎん」
教授は、震える手で古文書を開いた。
「この魔方陣は、古代に『魂を歪ませる禁術』に使われたものと酷似している。ヴァルドめ、何を企んでおる!」
オルセン教授は地図を広げ、ティアが示した収束点を指さした。それは、学園内で最も古い、使われていない地下倉庫の真下に当たっていた。
「その倉庫は、学園創設時からあるが、現在は封鎖されている。ロレンツォは、そこで中継魔方陣を起動させているに違いない」
◇◇◇◇◇
翌日、レオンハルトとティアは、オルセン教授の研究室で合流した。
「お兄様、ロレンツォの魔力の出所がわかったわ。地下倉庫の真下に、学園全体の監視と支配を担う中継魔方陣がある」
「よし。僕も証拠を掴んだぞ。ロレンツォは、王立魔術院経由でヴァルドの資金提供を受けている。つまり、ロレンツォを排除すれば、一時的に学園の支配と監視は崩壊する」
二人の目は、同じ目標を捉えていた。
「僕が卒業するまで、残り半年を切った。この中継魔方陣を破壊する。それが、リルとナターシャ嬢を救うための、最初の決定的な一手だ」レオンハルトは強く宣言した。
ティアは力強く頷いた。
「はい。そして、その破壊には、教授の特殊な魔術触媒が必要不可欠よ」
二人はオルセン教授を見つめた。教授は、面白そうに目を細め、クッキーを一口かじった。
「ホッホッホ!若者の悪巧みは、見ていて飽きんのう!よかろう、この可愛らしいおじいちゃんが、禁術の破壊を手伝って進ぜよう!」




