11:結界の解析と、ロレンツォの反撃
オルセン教授の研究室は、ティアにとって学園唯一の安全地帯となった。
「ホッホッホ!さて、共同研究者よ。まずは君が感知した『ノイズ』の正体を暴くとしよう」
ティアは、ロレンツォ教官の魔力から発せられ、学園全体に薄く張り付いている不協和音の波動を詳細に教授に伝えた。
教授は丸眼鏡を押し上げ、驚愕に目を見開いた。
「これは、予想以上に古く、悪質な術式じゃ!魂の支配と、広範囲の精神監視を組み合わせたものだ。特に、魔力の弱い下級貴族の生徒の動向は、このノイズが完全に捉えているぞ!」
ティアはナターシャがCクラスにいることを思い出し、緊張した。CクラスはAクラス棟とは離れた、下級貴族の生徒が集まる棟にある。
「教授。この結界は、生徒の魔力移動パターンを監視していると仰いましたね」ティアは尋ねた。
「うむ。君の天才的な魔力は、結界のノイズを突き破るが、その際に痕跡を残してしまう。ロレンツォに察知されるぞ」
「わたくし、あのノイズの発生源(ロレンツォの居場所)を特定したいのですが、ロレンツォ教官の研究室の周囲を探る際、この魔力痕跡を残したくありません」
ティアは、ロレンツォの調査というもっともらしい理由を提示した。
オルセン教授は、ティアの目的を理解し、満足そうに頷いた。
「なるほど。それは賢明じゃ!ロレンツォの尻尾を掴むには、気づかれてはいかんな」
オルセン教授は、ティアに特殊な「魔力迷彩」の触媒を渡した。
「これを使いなさい。私の研究室の奥で開発しておるものじゃ。君の魔力を『無害な一般生徒の魔力波動』として偽装する。ただし、持続時間は短い。調査は迅速にな」
◇◇◇◇◇
ティアがオルセン教授との協力体制を固める一方、ロレンツォ教官は静かに動き出した。
彼は、リルセリアが優秀な妹の助けで課題を乗り切ったことを知ると、公衆の面前での失敗を狙う、より陰湿な罠を仕掛けた。
Aクラスの魔術実習の授業中。ロレンツォは突然、リルセリアを指名した。
「アルバレート嬢。君は王太子の婚約者候補。その才覚を皆に見せてほしい。この魔法陣を使って、魔力供給のバランスが極めて難しい、多層防御結界を、一発で展開してみなさい」
その課題は、リルセリアの得意分野ではない、繊細な魔力操作を要求するものだった。リルセリアは顔色を失った。
「そ、そんな、いきなりは……」
「殿下は、婚約者として君に万能性を求めていらっしゃるはずだ。さあ、早く」
ロレンツォは冷たく圧力をかける。
リルセリアは焦り、震える手で魔法陣に魔力を流し込んだ。結果は、結界の崩壊。彼女は顔を赤らめ、クラスメイトの嘲笑に晒された。
(許せないっ!これがロレンツォの狙い……!精神的な屈辱で、お姉様の自信を削り、孤立させる気ね!)
ティアは激しく怒りを感じたが、ロレンツォの魔力を解析する方が優先だった。
その日の放課後。ティアは、オルセン教授の魔力迷彩を試すため、下級クラス棟周辺を探索した。
ロレンツォの監視結界は、ティアの魔力を無害なノイズとして処理した。ティアの探知魔法は、Cクラス棟の裏手にある古い資料室の窓際で、ナターシャの微弱な魔力を捉えた。
(あそこだ。いつも一人で、誰にも邪魔されない場所……)
ティアは、ナターシャが孤独に過ごす時間と場所を特定した。
(お兄様が卒業するまで、もう時間がない。次の一歩を踏み出すわ)




