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悪役令嬢にされたお姉様が○○されるのを断固阻止します!  作者: 夜宵
第一章 賢女の回帰と、幼き日の誓い

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1:悲劇の予兆と目覚めた魔力

もう春だというのに寒く、灰色の雲が空を覆い尽くし、昼間でも暗く人々の心を陰鬱にするような日。


アスラニア王国の秘宝と言われた美しい公爵令嬢が自ら命をたった。


その前日、幼い頃から婚約者として共に歩んできた王太子、シエル・フォン・アスラニア殿下に婚約破棄を言い渡されていた。


その酷い騒動は、アスラニア王国の貴族が集まる王家主催のパーティーでの出来事であったため、公爵令嬢が毒を飲んで自害したことを疑う者は誰もいなかった。


亡くなった姉の日記を見つけた妹のティアリア・アルバレートをのぞいて。


◇◇◇◇◇


「うぅ……、ゲホッ!ゲホゲホ!」


急に目の前が明るくなって、自分の意志に関係なく出てくる咳が苦しくてうっすら目を開けた。


「ティアリア様!」


涙目で覗き込んでいるのは、メイド服を着た優しそうな顔の………私の専属侍女のユラだ。


「ほぇぇ、ゆらぁ?」


ユラ、な、なんか若返ってない?


「ティアリア様!よかった!お気づきになられたんですね。」


「わたくち、どうして……。」


かすれた声で呼びかけると、ユラは優しく背をさすってくれた。


「覚えていませんか?お庭にある池に落ちておぼれたんですよ。」


池に?私が?


幼い頃に一度落ちてから、近寄りもしなかったのに。

なにがなんだかわからず、自分の頭をおさえた。

 

あれ?手が小さい。

それになんだか、ふっくらしている。

幼女のような柔らかくハリのある小さな手だ。


両手を広げてマジマジ見つめる私をユラが不思議そうに見つめている。


「ユラ、今わたくちはなんたい?」


異様に喋りにくい舌をまわしながら、ユラを見上げると


「どうしたんですか?この前4歳のお誕生日パーティーをしたばかりじゃありませんか。

池に落ちたショックで、記憶が曖昧になっているんでしょうか……。お医者様を呼んできますね。」


焦り顔のユラが出ていき、一人になったのを確認して急いでベッドからおりる。なんだかベッドが異様に高い気がする。


クローゼットのそばの姿見に全身を写してみると、そこにはアメジストのような紫色の瞳をこぼれそうなほど開いて、呆然と立っている艶々したプラチナヘアの女の子がいた。


「もどってきたんだ………」

「やった!じゃあおねえしゃまも!」


その時、バタバタと足音がして、扉が開くとともに小さな綺麗な女のコが飛び込んできた。


「ティア!大丈夫!?」

 

ハァハァ息を切らして心配そうに私を見つめる少女。

緩やかにウェーブした輝くようなプラチナヘア。

少し垂れ下がったアメジストのような大きな瞳。

私の姉、リルセリア・アルバレート。

アルバレート公爵家の長女。


「うえ〜ん!おねえしゃまぁ〜!!」


お姉様を見た途端、私は号泣してしまった。


生きてる。

お姉様が生きてる。


なかなか泣き止まない私を心配して、優しく抱きしめてくれたお姉様が悪役令嬢として殺・さ・れ・た・だなんて。


「ティア、助けてあげられなくてごめんね」

ウルウルと瞳をゆらして謝ってくれるお姉様は、なにも悪くない。


この時は確か、長雨が続いていて退屈していた私が、ようやく晴れた庭に飛び出して皆の静止を振り切って走り回って滑って、池に落ちたのだ。


ヤダ、恥ずかしすぎる。昔の失敗をもう一度繰り返させられるの辛い。

ま、まぁ、まだ4歳だし……、ねぇ。


「お、おねえしゃまはなにもわるくありませんわ。わ、わたくちが、ティアがッ、はしってしまったからッ」


ひっくひっく言いながらギュッとお姉様に抱き着くと、甘いいい香りがして気持ちが落ち着く。


◇◇◇◇◇


「さてと」

お医者様に診てもらい、少し水を飲んだけど大丈夫だとお墨付きをいただいて部屋で1人で紙の前で思案中。


前世の記憶を忘れないうちに、メモしておこうと思ったのだけどまだ4歳、字がうまく書けない。


「うーん、てんせいのへいがいですわ。へいがい困った」


しかたなく、自分だけがわかる絵にして書くことに。


「まずはかぞくこーせー」

我がアルバレート公爵家の家族、お仕事が忙しくてあまりお家にはいない魔術師団長のお父様と美人だけど厳しいお母様、公爵家の跡取りとしてのお勉強と剣術の鍛錬が忙しいお兄様10歳にもうすぐ6歳のお姉様、と4歳の私。


「たしかおねぇしゃまの6たいのお誕生日パーティーで、おーたいしでんかに見初められてこんやくすることになったんだったわ……」


その後、15歳で国立魔法学園に入学したお姉様と王太子殿下は次第にギクシャクしはじめ、王太子殿下は男爵令嬢のナターシャ・バレリーと仲を深めていくのだ。


そして、お姉様が18歳になったあの日、悲劇はおこった。


「こんやくはきだけなら、こんやくはきだけですんだなら」


悔しくて涙が出てくる。


あんな綺麗でいい匂いで優しくて賢くて優秀でキラキラしてていい匂いのお姉様なのに!


プンプンしながら、絵をかきなぐっていると誰かが扉をノックする。


「どうぞぉ」

静かに扉が開いて、入ってきたのはお姉様。

そういえばお姉様はいつも静かに歩く、お姉様があんなに取り乱してたのは、初めて見たかも。


「あら、ティアお絵かきしていたの?上手ね」


お姉様はニコニコしながら、私の描いた絵を見つめている。


「おねえしゃまー」


ギュッとお姉様に抱き着くとお姉様も抱き締め返してくれる。はぁーいい香り。


「ふはぁ。おねえしゃま、いいかおり」


「うふふ、そう?お庭に咲いたお花をポプリにしてお部屋に飾ってるからかしら」


「今度ティアにも作ってあげるわね」


「うわぁい!おねえしゃまだいしゅきぃ」


「それとこれ、怪我をしないように魔術がかけられたブローチなの。ティアにあげる」


お姉様は可愛いお花のブローチを私の胸につけてくれた。


このブローチはお祖父様にいただいたお姉様の宝物だ。前世でも、とても大事にしていた。


「わたくち知ってますわ!これはおねえしゃまのたからものです!これはもらえませんわ」


あせって外そうとするけど、動きの悪い小さな手ではなかなか外せない。


見かねたお姉様が外してくれたのを、お姉様におしつけるようにして渡した。


「でも、ティアいつも欲しがっていたじゃない。」


そうだった。

前世の私は我儘で、お姉様の持ち物をなんでも欲しがっていた。


このブローチもお姉様だけがお祖父様からいただけて、羨ましくて何度もお強請りしたけどこれだけは譲ってはくれなかった。


でも、このブローチのおかげでナターシャからの嫌がらせでお姉様が怪我をすることはなかったのだから、これをもらうわけにはいかない。


「ごめんなちゃ、さい。わたくち、おねえしゃまがうらやましかっただけなんでしゅ。」


大事なところでかんでしまった。

もう、4歳児滑舌悪すぎる。


「今日のティアはなんだかとってもいい子ね。」


不思議そうに首をかしげて私を見つめるお姉様。


「ムムムッ、ティアはいつもいい子でしゅわよ、おねえしゃま。」


「ウフフ、そうね、ごめんなさい。じゃあ、今度ティアに似合うブローチを一緒に買いにいきましょう。それにお父様に魔術をかけていただいたらいいわ。」


「いっしょにお買い物!?やったぁ!うれしー」


お姉様の手をつかんでブンブン振り回した。


転生前は16歳だったはずなのに、行動が4歳児のそれになっている自分に気付かずにティアは大喜びした。


◇◇◇◇◇


夜、お仕事から帰ってきたお父様が様子を見にきてくれた。


「おとーしゃま?」


早めに夕食をすませ、ベッドでうつらうつらしていたティアは額に置かれた大きな手のぬくもりが気持ちよくてスリスリ擦り付けるように頭を動かした。


「あぁ、ごめんよ、ティア、起こしてしまったかい。」


「んふ、おとーしゃま、おかえりなしゃいませ。」


「池に落ちて大変だったそうだな、仕事で帝都の端のほうにいてすぐには帰れなくてすまない。もう大丈夫かい?」


「はうぅ、大丈夫れす!もうそれは忘れてくだたい!」


恥ずかしくてカミカミになりながら、お父様の手で顔を隠す。

お父様はニコニコしながら私の頭をなでまわす。


「あのぅ、おとうしゃま、お願いがあるのでしゅ。」


「ん?なんだろう」


「あの、あの、魔法の勉強がしたいんでしゅ!」


前世でも夢中になって勉強していた魔法。

4歳児になってしまった今、使えるのかどうかわからないけど前世のような事態を防ぐためには絶対に必要だ。


「ティアはまだ4歳だし、早いんじゃないかなぁ」


「お願いしましゅ!」

「お願いしましゅ!」


ティアは小さな両手を胸の前でぎゅっと握りしめ、潤んだ紫色の瞳でお父様を見上げた。


その必死さに、お父様は一瞬だけ目を瞬かせる。


「……そんなに、魔法を学びたいのかい?」


「はうっ。とっても!!」


食い気味に答えたティアに、お父様は苦笑しながらも優しく目を細めた。


「でもな、ティア。魔力の扱いは危ないんだ。普通は六歳から——」


「ティア、できましゅ!がんばりましゅ!おねがいっ!」


まん丸の目に、大粒の涙がぽろり。


それを見た瞬間、お父様の肩がピクリと震えた。


「……くっ。そんな顔をされたら断れないじゃないか……」


頭を抱えながらも、ティアの額にそっと手を置く。


「じゃあ——少しだけ、魔力を見てみよう。危なくない範囲でね」


「!!やったぁぁ!!」


ティアはベッドの上でぽよんと跳ねる。


お父様は苦笑を隠せないまま、手をかざし、そっと簡単な魔力測定の術式を発動した。

淡い金色の光がティアの身体を包み込む。


次の瞬間——

「……は?」

お父様の目が見開かれた。


「ティ、ティア……魔力量が……4歳児の、三倍……?」


しかも魔力の質は、澄み切った湖の水のように純粋。

魔術師団長である彼が言葉を失うレベルだった。


「おとーしゃま?ティア、だめでしゅか……?」


「……いや。だめじゃない。むしろ——とんでもなく才能がある」


お父様はティアの両肩に両手を置いて、まじまじと見つめた。


「少しずつ練習をしよう。危なくないように、私がつきっきりで教える」


「ほ、ほんと!?」


「あぁ。ティアならきっとできる。君は、強くなる子だ」


ティアの胸がじん、と熱くなる。


(つよくなる……!おねえしゃまを守れるくらい……!)


「おとーしゃま、ありがとうございましゅ!!」


ぱぁっと花が咲くような笑顔に、お父様はまた頭を抱えた。


「……かわいすぎる。我が娘ながら罪深いな……」


ぼそっと呟く声に、ティアは首をかしげた。


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