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虚空より還らぬ者

虚空の声との対話で、健人はこの世界の“構造的欠陥”を知った。

光と闇の境界は、神の創造の誤りによって固定され、

王国はその構造の中で“正義”を独占していた。


だが真理は、まだ虚空の底に隠されている。

健人は再び闇へと足を踏み出す――

世界の根に潜む、王国の真実を暴くために。

虚空の囁きが遠ざかると、

世界が静かに戻ってきた。


足元に転がるのは砕けた岩と、無数の骨。

空気が重い。

腐敗した魔力が層のように溜まり、

ただ息をするだけで喉が焼ける。


《虚空因子》がかすかに震えた。

どこかで、何かが――呼んでいる。


「……こっちか。」


足を踏み出すたび、

闇の中に青い線が走る。

《虚空視》が導く方向は、

ダンジョンの壁の裏側、

かつて“何か”が隠された空間だった。


健人は拳を突き出した。

《虚写》が反応し、空間の構造を写し取る。

岩盤の一部が淡く揺らぎ――崩れた。


現れたのは、

古びた扉と、王国の紋章。


「……あの日、見た紋章だ。」


扉の中央に刻まれた文字が、

虚空の光に照らされて浮かび上がる。


【聖光召喚研究第零区画】


冷たい笑みが漏れた。

「やっぱりかよ……王国の、残飯処理場ってわけだ。」


扉に手を当てる。

《虚空因子》が共鳴した。

封印が解除される。

鈍い音を立てて扉が開き――

中に広がっていたのは、

朽ちた研究室と、無数の魔法陣。


床に残る焦げ跡。

壁一面に刻まれた祈りの文字。

「どうか……勇者が報われますように」

「光の中で、眠れ」

「神よ、どうか我らの罪を――」


祈りではなかった。

“贖罪”だった。


健人の視界が青に染まる。

《虚空因子》が自動発動。

空間の残留魔力を“読み取る”。


――記録が再生された。


光が走り、過去の映像が浮かぶ。

白衣を纏った研究者たち。

泣き叫ぶ異界の子どもたち。

そして、光の祭壇の上で

“勇者”と呼ばれる者たちが次々と消えていく。


「これで神の加護は保たれる!」

「魂を、光へ還せ!」


その声に重なるように、虚空が囁いた。


『勇者の死は、光の維持。

魔族の死は、その燃料。

それが、王国の信仰の本質だ。』


健人の拳が震えた。


「ふざけんな……!」


『これが、神の設計した“完全な世界”だ。

光は正義。闇は悪。

だがその正義は、犠牲の上でしか成り立たない。』


「修正……? そんなもんじゃ済まねぇ。」

健人は低く呟いた。


《虚写》が起動する。

目の前の魔法陣を、構造ごと“写し取り”、

再構築の光を走らせた。


『再構築、開始。』


次の瞬間、研究所全体が震えた。

封印陣が崩壊し、光が反転する。

王国の残留加護が消滅していく。


崩れ落ちる天井。

だが、健人は笑っていた。


「俺を欠陥って呼んだのは、お前らか。

 なら、こう言ってやる――

 完璧こそ、最大の欠陥だ。」


光が砕け散り、

闇が静かに戻ってくる。


そのときだった。

《虚空因子》が再び震えた。


新しい波長。

人ではない。

しかし、懐かしいような……“共鳴”。


「……誰か、いるのか?」


闇の奥から、

かすかな声が返ってきた。


『……外の者よ、応答せよ。』


健人は口元に笑みを浮かべる。

「ようやく来たか。――この腐った世界の、外側から。」


――虚空より還らぬ者、完。

世界の真実が明かされた。

王国の信仰は、光を維持するための“生贄の循環”。

勇者たちは栄誉の名のもとに殺され、

魔族は悪の烙印のもとに焼かれた。


健人は悟る。

自分に宿る《虚空因子》は、神の設計通りに世界を“修正”するためのもの。

だが、彼はその枠に従わなかった。


修正とは、誰かの決めた正しさを押しつけること。

健人は、それを拒み――自らの正しさで世界を書き換えることを選んだ。


彼の存在は修正ではなく、“破壊と再構築”。

神のプログラムすら凌駕した、意志ある修正者。


次章、「闇と契る者」。

虚空の底に響いた声――その正体が、ついに姿を現す。

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