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虚空に堕ちた欠陥勇者、虚空の目を覚ます

※第1章の簡単なおさらいです。


クラスごと異世界に召喚された俺――鈴木健人。

授かったギフトは《虚写》と《虚空因子》の二つ。


本来あり得ない“二重ギフト”に王と宮廷魔法使いは動揺し、

「欠陥勇者」として俺を処刑しようとした。


とっさに俺は、他のクラスメイトが言っていた

「初級火魔法と水魔法です」と嘘を吐いたが、

それでも処刑の命令は覆らなかった。


王の号令とともに発動した《メタスタシア》。

その瞬間、《虚空因子》が激しく反応し、

世界の座標が乱れた。


そして――


……次に目を開けたとき、俺は“どこか”にいた。


周囲は暗く、湿った岩肌と腐臭が漂っている。

足元には骨が散乱し、壁の苔が淡く光っていた。


「……ここ、まさか……ダンジョンの……?」


なぜだか分からない。

けど、胸の奥がざわついた。


まるで“この場所の最も深い場所にいる”と――

誰かに囁かれたような気がした。


それは錯覚じゃなかった。

《虚空因子》が、確かに“この深淵”に反応していた。


……どうやら俺は、処刑されるどころか、

この世界の底へと落とされたらしい。


なら、ここから這い上がるしかない。

欠陥勇者? 上等だ。

ここからが、俺の異世界の本番だ。


……冷たい。


体の芯まで凍えるような感覚で目が覚めた。

目を開けても、闇。どこまでも黒い。

暗闇というより、“世界そのものが存在していない”ような空間だった。


湿った空気。鼻を刺す腐臭。

指先に触れたのは硬く冷たい石。

ゆっくり起き上がると、足元で“コツン”と何かが転がった。

骨。人の形をしている――はずの何か。


「……ここ、まさか……ダンジョンの……?」


そう呟いた瞬間、胸の奥がざわついた。

説明できないけど、“ここが最下層”だと分かった。

理由はない。けど確信がある。


――《虚空因子》が反応していた。


何かが、俺の内側で動いている。

音も光もないのに、頭の中に“立体の構造”が流れ込んでくる。

壁の位置、岩の角度、そして――動く“影”。


「……誰もいないのに、分かる。」


見えていないのに、“感じる”。

それはまるで、空気が形になって触れてくるようだった。


視界に、淡い青い光が走る。

光の筋が空間をなぞり、輪郭を描き出していく。

暗闇が線で満たされ、世界の形が“見える”ようになった。


《虚写》が、自動で反応した。

《虚空因子》が“感じた”情報を、“写し取って”可視化したのだ。


「……これが、俺のギフトか。」


静かに呟き、辺りを見渡す。

青白い線で描かれた岩壁の向こうで、

何かが、這いずるように動いた。


生き物の気配。

でも――人ではない。


俺は自然と息を殺した。

鼓動が早くなる。

暗闇の中、動くものはひとつだけ。

ゆっくり、こちらへと近づいてくる。


(まずい。何か来る。)


だが、不思議と恐怖はなかった。

体が勝手に構えを取る。

相手の動きを――感じて、写す。


一歩踏み込む。

視覚も思考も必要なかった。

ただ、反射で動いた。


――音もなく、スライムの核を斬り裂いた。


青白い液体が飛び散る。

残滓が消えていく中、俺は息を整えながら呟いた。


「……これが“欠陥勇者”の力、ね。」


笑いがこみ上げる。

皮肉でも絶望でもない。

ただ、心の奥底から湧いた愉快さだった。


――どうやら、神のバグってやつは悪くない。


スライムを斬った感触がまだ手に残っている。

ぬるりとした感覚と共に、蒸発した魔力が空気を揺らした。


「……生きてる、か。」


周囲はまだ暗い。

けれどもう、暗闇は恐怖じゃなかった。

《虚空因子》が“空間そのもの”を感じ取り、

《虚写》がその情報を俺の視界に写し出している。


光がなくても、見える。

音がなくても、分かる。

俺だけの“世界の見え方”が生まれていた。



しばらく歩く。

足音が岩に反響し、わずかな滴の音が遠くに響く。


ダンジョン……

いや、これはもはや“世界の墓場”だ。

散乱した骨と錆びた剣。

何人の冒険者がここで果てたのか、考えたくもない。


そんな中で、胸の奥が再びざわめいた。

《虚空因子》が、何かを“警告”している。


(……いるな、前方。)


姿は見えない。

でも“在る”のが分かる。

感覚が形を持つように、敵の存在が浮かび上がった。


《虚写》が自動で反応。

視界に、淡い青線で輪郭が描かれる。

――スケルトン。錆びた剣を握り、崩れかけの甲冑を纏っている。


「……さっきのスライムよりは手強そうだな。」


俺は一歩下がり、観察した。

スケルトンの動きは単調だが、

骨と剣がぶつかるたび、妙なリズムを刻んでいる。


その一瞬一瞬を、《虚写》が“写す”。

目で見るのではなく、世界ごとトレースするように。


スケルトンが振り上げた瞬間、

俺の体が自然に動いた。

剣を真横に振り抜き――骨ごと砕く。


音も、光も、必要なかった。

“結果”だけがそこにあった。



スケルトンが崩れ落ち、

青白い光が残滓として漂う。


俺はそれを眺めながら、小さく息を吐いた。


「……テンプレ勇者どもが聞いたら、発狂するだろうな。」

「欠陥勇者? はは、笑わせる。」


《虚空因子》が反応する。

残滓から流れ込む情報が、脳に焼き付いた。


スケルトンの“記憶”、断片的な戦闘経験。

《虚写》がそれを吸収し、再現可能データとして“写し取る”。


「……まさか、記憶まで。」


“写す”だけじゃない。

“受け継ぐ”ことすら可能――

そんな実感が、ゆっくりと身体を包み込む。



ダンジョンの奥は、なおも静かだ。

けれどその沈黙の奥に、確かに何かが“目を覚ましている”気がした。


《虚空因子》が微かに脈動を放つ。

まるで、何かを“呼んでいる”ように。


「……いいぜ。行ってやろうじゃねぇか。

 俺のギフトがどれほど“バグってる”のか、確かめてやる。」


そう言い残し、健人は闇の奥へと歩き出した。

最後まで読んでくださってありがとうございます!


第2章では、主人公 健人がダンジョンの底で《虚写》と《虚空因子》の真価に触れ、

“欠陥勇者”から“虚空の勇者”へと踏み出す一歩を描きました。


次章では、ダンジョンのさらに奥で待つ“異質な存在”と邂逅できればいいなと思います。

そこで《虚空因子》の正体が少しだけ明かされる予定です。


感想・ブクマ・評価など励みになります。

ここからが健人の“逆転”の始まりです。

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