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タッパーの中身

作者: 冲田
掲載日:2025/11/05

 SNSのタイムラインを見ていると、たくさんのアカウントが満月の画像をアップしていた。

 たぶん月なんだろうなという米粒のような写真もあれば、印象的な建造物と一緒にどこか幻想的に撮られたものや、望遠鏡をつかって撮影したんだろうクレーターまでくっきりみえるような画像もあった。

 そういや今日は中秋の名月だっけ。今にも雨が降りそうな曇り空をベランダから見上げ、それからスマホに視線を落として、今年の月見はこれで終わりだな。なんて思う。

 とはいえ、こうやって話題になるから気になっただけで、お月見団子やススキを用意して雅に月を眺めるなんてことをする習慣は俺にはないし、ほとんどの人がそうだろうと思う。

 だから、彼女が「料理教室の仲間とお月見パーティーをやるの」と言って今夜出かけて行ったのも、珍しいパーティーもあるものだなというのが、正直な感想だ。

 料理教室だからこそ、季節行事を言い訳にしやすいのかもしれないけれど。


『彼女の手料理』というものに憧れて、同棲をし始めたころの彼女に何度か料理をしてくれとせがんだ。

「得意じゃないけど……」とはにかむ笑顔で彼女は要望に答えてくれた。が、正直に言って、本当に得意じゃなかった。一人暮らしの自炊歴が長い俺の方がまだマシなものを作れた。

 その時はなんとか完食したけれど、きっと俺はよほどまずそうに食べていたんだろう。彼女は「だから得意じゃないって言ったじゃない」とむくれた。

 悔しかったからなのか、それとも俺が「料理上手な人が好き」と言ってしまったからなのか、彼女は料理教室に通い始めた。もう、それは熱心に。


 はじめは週に一回あるかないか程度の頻度で教室に行っていたのが、週一回になり、週に何回もになり、イベントにも積極参加、合宿にまで行くようになった。料理教室にも合宿なんてものがあることに驚いたが、なにやら、時間のかかる料理を習う機会だったりするらしい。

 それだけ熱心に通ってはたして料理の腕は上がったのか。たしかにだんだんと料理はうまくなっていって、およそ食い物ではなかった彼女の手料理は食べれるレベルになっていった。


 そしてある夜、俺が仕事から帰るとまるでプロ並みの料理を用意して待っていてくれた。

「すごいじゃん! めっちゃおいしいよ!」と俺が素直に感心して褒めると、彼女は幸せそうに笑った。


 彼女の用意してくれる料理はとっても美味くなったけれど、そのかわり、俺が家にいる時には料理を作ってくれなくなった。

「家にいるならあなたが作ってよ」と、そういう言い分だ。まあ、筋は通っている。家事分担が当たり前の現代で、彼女に食事の用意の全てを押し付けようとは思っていない。

 けれど、俺もバカじゃない。

 俺は、彼女の持って帰ってくる料理がどうしても食べられなくなって、最近はこっそり捨てるようになった。


「ただいまー。遅くなってごめんねぇ」とお月見パーティーとやらから帰ってきた彼女は、ガサゴソと紙袋からタッパーを取り出した。

「今日はね、里芋の煮転がしと、お月見団子と、あとロコモコ丼を作ってね。あ、ロコモコなのは目玉焼きが月見っぽいからなんだけど……」

 ふわりといい香りの漂う彼女が上機嫌にタッパーの中身を説明する。

「誰が作ったの?」

「え? もちろん私だよ。何言ってんの?」

「先生が作ったのかも、とか思って」

「まあ、そりゃあ教えてもらってるんだから、ちょっと手伝ってもらったりはしてるけど」

「今日も先生と二人?」

「え〜。なんでそんな事聞くの? パーティーって言ったじゃん。しかも今日『も』って何?」

「イケメンだもんな。優しそうだし」

「もう! ほんと何言ってるの? もしかして習い事の先生に嫉妬とか? 気分悪いなぁ。

 私、疲れたし、お風呂入ってくるね!」

 パタパタと狭い部屋を小走りに風呂場へと向かう彼女の背を見送ってから、俺はタッパーの中身をゴミ箱に捨てた。


 俺もバカじゃない。

 急に別人のようにプロ並みになった料理は別人が作ったものだし、料理教室に熱心に通っているのはイケメン先生目当てだし、料理教室が本当は週に一回しか開講されてないことくらい、気づいている。

 毎日のようにセンセイの自宅で開講される『特別レッスン』も、料理教室のはずなのに何故か温泉旅館でしっぽり行われた合宿も、今日のお月見パーティも、そしてその都度アリバイのように持って帰ってくるタッパーも、全部全部、知ってるんだ。


 浮気相手の手作り料理なんて、食えるわけがない。




 おしまい

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