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おとぎ話  作者: ノラキツネStrayfox2024


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9-物語:丁寧に淹れたお茶

朝だった。ローズと俺の間ですぐに、ものすごくバタバタした空気になっていった。


「それは俺のものだ!」俺はローズに向かって怒鳴った。

「だから窓にケーキなんか置くなって言ったでしょ!」ローズも同じように怒って言い返してきた。


ここ数週間、ローズと俺の関係はまったくうまくいっていなかった。……でも気づいたんだ。誰かと本気で言い争ったのは、これが初めてだった。

本当のことを言えば、俺は誰にも本当の感情をぶつけたことなんてなくて、いつも端っこにいて、他の奴らより下に沈んでばかりだった。なのに、それなのに……結局、話は最悪な形で終わった。


「このバカ! 俺がいなかったら、その“児童性愛のヒーロー”にもう捕まってたぞ!」俺は怒りで言った。

「で、俺がいなかったらアンタは“鬱っぽいエモのヲタ”のままだったわ。俺に会わなかったら、たぶん絞めてたかもね」ローズは言った。


そこで、俺たちの言い争いは決定的に切り替わって――俺たちはもう話さないことにした。少なくとも、今週の残りまでは。


まあ、少し落ち着くために散歩に出た。すると、いつも通り町の人たちは俺を指さして、俺の悪口を陰で言ってくる。

最近は気にならないはずだったのに……それでも、こんな不機嫌な顔で外に出たのは初めてだった。


「悪魔みたい……魔法のないガキ、何があったんだろ。どうせリューガに見捨てられたんだよ」

人々がそう囁き続けていた。


……正直、変な感じがした。初めてなのだ。俺のことを傷つけるような言葉を誰も口にしない。むしろ、みんな俺を怖がっているみたいだった。


水たまりに映った自分を見て、俺は気づいた。人が怖がっている理由が。

不機嫌そうな顔が、変な種類の悪魔みたいに見えるんだ。……まあいい。俺はそのまま歩き続けて、ダンテに出くわした。


ダンテは子どもの頃からいつも俺をいじめていた。でもリューガはいつだって守ってくれた。


「おい、カラス野郎!」

俺は聞いたことのない言葉が口から勝手に出た。

「“親友”に捨てられて喚いてるらしいな。しかも町の人まで怖がらせてる。新しい“町の守り手”だかなんだか知らないが、俺がてめえの居場所を作ってやる」


そいつらは乱暴に殴ってきて、ゴミだらけの路地裏に投げ飛ばした。

そして、まるで人間の屑みたいに吐き捨てた。


「またこの顔を見せたら、もっとひどい目に遭わせる。呪われた化け物め!」


俺はこういう扱いには慣れていた。……あるところまでくると、もうどうでもよくなる。

そのあと大雨になって、俺は家に帰ることにした。


「ローズは考え直して謝ってくれればいいけどな」

そう思った。正直、もう最初の友だちであるローズを怒り続けたくなかった。


でも、ふと路地裏のほうから何か聞こえた。


「助けて!」


路地の奥で、路上の犬に襲われている女の子の叫びだった。俺は駆けつけて、犬を呼ぶために口笛を吹いた。すると犬たちは言うことを聞いて、落ち着いた。


「大丈夫、大人しくしろ」


女の子は言った。


「リードつけてあげなよ。人を襲いちゃうでしょ」


「違うよ。俺の犬じゃない。路上の動物は、少なくとも人間よりずっと優しくしてくれる」

そう言った。


すると彼女は返してきた。


「わかるよ。あなたは魔法がない。マナを感じないもの。……それでも、助けてくれて本当にありがとう!」


彼女はやたらと大声で叫ぶ。俺は知ってる誰かを思い出した。……まあいい。


助けたお礼に、彼女は俺をお茶とアイスに誘ってくれた。

彼女はチェリー味を頼み、俺はダブルの○○味を頼んだ。


普段は人に軽く見られたり馬鹿にされたりするのに、彼女は丁寧に接してくれた。アイスも異常なくらいおいしい。ここは町でも屈指の名カフェだったからだ。


正直、ここに来るのは初めてだった。……と言っても、この店のアイスを食べたことがないわけじゃない。

子どもの頃、リューガと俺はここでよくアイスを食べていた。俺はいつも外で待たされていた。というのも、店の主人が絶対に入れてくれなかったからだ。

俺を劣った存在みたいに扱う。


でも今日は例外だった。彼女が店の主人と仲がいい友だちだとしたら、納得できる。

それでも主人は俺を横目で見続けている。視線がまるで裁くかのようだった。他の客も同じだった。称賛の目じゃない。むしろ、“犯罪者みたいな目”で品定めしている。


……でも、彼女が隣にいる間だけは、何も言えないみたいだった。


「ねえ、魔法なしの坊や。雨の中で何をしてたの?」

彼女が聞いてきた。


「友だちと喧嘩してさ。落ち着くために町をぶらぶらしてた」

そう答えた。


(くすくす笑い)

「表情豊かって感じじゃないね。変なエモっぽい。しかも髪も変だよ。髪型が変なんじゃなくて、色が二種類あるもんね」


からかうみたいに言って、ちょっと笑う声が――リューガを思い出させた。


「生まれつき、ってやつだと思う。最近いろいろあって……変わった気がするんだ。新しい経験もして、でも……自分がちょっと変な感じがする」


彼女は俺の手を取って、やわらかい声で言った。


「人は成長すると変わるの。そんなの、変じゃないよ。いいことでも悪いことでも、経験っていうのは少しずつ人を育てて、形を変える。少なくとも、それが人間ってものじゃないかな」


「……距離が近い!」


よく見ると、彼女はとても綺麗な女の子だった。肌は絹みたいだ。

普通の服を着ているのに、服の選び方と組み合わせ方が上手くて、すごく上品に見える。しかも礼儀正しいのが分かる。


「この気持ちは……呪いみたいなもの?」


彼女の目は……きれいすぎる。


「顔、真っ赤だよ。かわいい」


この気持ち……いや、違う。愛とか言うな。ありえない。

「愛じゃない! あ、いや! ちが……!」


こんなふうに感じたことのある女の子は、みんな最悪なやり方で俺を拒絶してきた。


……待って。ローズは?


考えてみると、ローズとの間に“恋っぽい”瞬間はたくさんあった。

でも少し振り返ると、ローズに対する気持ちは、主に欲望だった。


「俺、クローゼットの変態じゃん……!」

しかも最悪なのは、否定する気すらないことだった。


「ふふ……雨も止んで、やっとお茶が来たね」


彼女はお茶を見てすごく嬉しそうだった。まるで新しいおもちゃをもらった子みたいに。


「正直、俺はお茶って得意じゃない」

俺が言うと、


「楽しみ方を知ればいいの」


結局、彼女の言う通りにして、俺はお茶を飲もうとした。香りは最高で、母さんが家で育てている薬草を思い出す匂いだった。だから少し飲んだ。


「くそっ! 熱っ! 舌が焼けた……!」


彼女は大笑いした。まるでコメディの舞台みたいに。


それから笑いながら言った。


「飲む前にふーって吹きなよ。あと、お茶は一気に飲むんじゃなくて“すすって”飲むんだよ」


そのあともしばらくからかわれたが、ようやく落ち着いた。

店の主人は俺を追い出した。理由は「うるさくて客の迷惑だ」ってことだった。

……まあ、入ってきた瞬間から出したかったのは明らかだったけど。


「本当に、あなたと過ごせてよかった」

彼女は言った。


「……本当? ほんとに?」

俺は驚いて聞いた。


「うん」


彼女はやさしい目で俺を見てくる。心臓がずっと、ドキドキしていた。


「ほんとに、彼女は綺麗だ。魔法がないって知ってるのに、あんなふうに優しくしてくれるなんて……」


俺はその午後ずっと彼女と一緒に町を案内した。

どうやら彼女が知っているのは、さっき行ったカフェくらいだったらしい。

そのカフェが有名だから、別に驚くことじゃない。


俺は、今まで誰にも入れてもらえなかった場所にいくつも連れていった。

まるで彼女と一緒にいる間は、誰も俺に何も言えないみたいに。


「すごく楽しい午後だったね」

彼女が言う。


「うん」


本当に、俺がいつも通りじゃない感じがした。


最後に、俺が誰よりも入れないとされた場所へ行った。

――ナツメさんの古い本屋。


ナツメさんは少し気難しいおじいさんで、たくさんの猫を飼っていた。

座右の銘は「払うなら歓迎する」だ。


正直、リューガと母さん以外は、魔法がないことを責めたことなんて一度もなかった。

金さえ払えば、あとはどうでもいい人なんだろう。

しかも俺は、この店で買い物をする唯一の客だった。


彼女はふと、窓際のガラスケースに飾られている一冊の本に目を奪われた。子どもみたいな目で見つめている。


「その本、好きなの?」

俺が聞くと、


「大好き。私の一番のお気に入り」


それは、みんなに拒まれていた“蜘蛛姫”の話だった。

でもある日、王子がやって来て彼女に恋をした。

偏見のせいで苦労しながらも二人は愛のために戦って、そして幸せに暮らした――そういう話。


彼女がそんなに嬉しそうに本を見ているのを見て、俺は買うことにした。

少しだけ貯めていたお金で。


「本当にありがとう!」

彼女は世界の全部みたいな笑顔で言った。


「どういたしまして」


正直、彼女の笑顔を見られた時点で、俺にとっては十分な“お礼”だった。


そして彼女は少しだけ微笑んで言った。


「本当に……プレゼントをもらうのは初めてなの。大切に、大事にするね」


「……その笑顔で、俺は完全にやられた!」


もしかして、彼女は俺に呪いでもかけたのか?


正直、楽しかった。けど同時に落ち込んだ。

だって彼女のそばにいられるなんて、俺には無理だ。


リューガの友だちだったのも、偶然に近い。

ローズの件だって同じ。

ここまで俺は運がよかった。でも、いい運は永遠じゃない。


そのうち、俺は完全に一人になるのかもしれない。


彼女は俺の顔を見て、聞いてきた。


「ねえ、どうしたの? なんで急にそんな寂しそうな顔になるの?」


「……最近、うまくいきすぎててさ。でも、俺の人生はずっとクソみたいだった。だから最近、変えようって決めたんだ。でもさ――今までの運が消えたらどうする? 俺が思い描くものを一度も手に入れられなかったら?」


怖い。

この世界では魔法の力が支配してる。俺にはない。

魔法がないってだけで、これまでの人生は何度も選択肢を奪われてきた。


「……俺はずっと、役に立たない臆病者のまま、哀れだって言われ続けるのかなって……」


「たしかにね。でも、あなたは“哀れで役に立たない”みたいには見えないよ。今日はあなたと一緒にいて、すごく楽しかった。私にとってあなたは、すごくいい人だと思う」


「努力すれば何でもできるっていう人もいる。でも、魔法の力が一番強い人でも限界はあるの。魔法がないってことは、たしかに機会を奪ってしまう。でも、それでも前に進もうとすることは間違いじゃない」


「結局あなたは人間でしょ?」


「……そうだ。俺、ずっと忘れてた。俺は人間なんだ。欲しいものがある。夢がある。どんな底の底に落ちたとしても、人間は目標を掴もうとして、望みを追いかける」


「じゃあ、君の夢は?」


「普通の生活がほしい。魔法がなくても、自分が望むことを全部掴める生活。誰にも、俺の願いも夢も奪わせない生活」


「いい夢だと思う。でも、前の生活は普通じゃなかったの?」


「前の生活が普通じゃなかったのか?」


……そうか。本当に、俺の前の生活は普通だったのか?


夜は寝る場所があった。少し不在がちだったけど、母さんは俺を無条件で愛してくれていた。

それからリューガがいた。いつも俺を支えてくれる友達。


質の高い生活ではなかったけど、食卓には三食あった。いつもお金に余裕があったわけじゃない。それでも俺たちはそれなりに暮らしていた。

基準によっては、前の俺の生活は“普通”だったのかもしれない。あるいは、俺がそれで満足してただけかもしれない。


学校教育を拒まれたけど、俺はそれでも文字の読み書きは覚えた。

礼儀も学んだ。数学も、歴史も、いろんなことも……全部、自分で。


それでも社会は俺を拒んだ。社会の基準に合わないから。

でも俺は悪い人間じゃなかった。


「……でも、そんな社会に属したいの? 人の考え方を変えるべきなの?」


魔法のない少年がいる物語――そういう漫画では、最後には主人公が最終的に世界を変える。でも現実は違う。社会はそんな簡単に変わらない。


「じゃあ、“普通”って何だ? 世界で普通ってなんだ? 社会が押し付けるもの? それとも、俺たちが日常で自然に感じるもの?」


――答えがない、完全な迷路だ。


「前の生活は、普通だった気がする」


「でも、それでも…」


「それでも……」


「それでも、俺は……どんなことがあっても、あきらめずに進みたい」


彼女は少し笑って、でも優しい笑顔で言った。


「いいよ。運がつくといいね」


「……」


「ほんっとに、ありがとうございます」


「最初は小さい目標を決めてみたら? それから少しずつ難しくしていって、最後に“ラスボス”まで行くの」


「……それ、いい助言だ」


「そう。ありがとう」


彼女は別れて去っていった。名前を聞き忘れた。けど、いつかまた会える気がする。

彼女の顔は忘れない。


俺は彼女のことを考えながら、ゆっくり家へ向かった。

言葉は俺を励ましてくれた。どんなことがあっても、俺は目標に向かって進む。――でも家に着いて思い出した。


「俺の人生は呪われてる……」


「ようこそ、カラスくん」


家に入った瞬間、母さんが床に倒れていて血まみれだった。

そしてローズは、ばらばらにされていた。


あまりの惨状に、俺は完全に固まった。


「……一体、こいつは誰だ? なんで俺の家にいる?」


「大丈夫。誰も死んでない」

「でも、放っておいたら母さんは出血してしまうかもしれない。庭にある薬草で治療できるよ。品質もかなり良さそうだ」


「……自己紹介がまだだったね。俺はJ.F.。Starshipのリーダーだ。俺の主は部下が次々と倒されるのに飽きてね。だから俺を“薔薇の魔女”のところへ向かわせた」


「なあ、君はレオだよね?」


「どうやら共通点があるらしい。俺は占い――星座占いが得意なんだ」


彼は丁寧で親切そうに全部を話していた。礼儀正しい“いい人”みたいに。

でも俺は、やったことを見て――こいつがただの狂人だと気づいた。


「下がれ! 未来の王が来た!」


……さらに最悪な狂人が現れた。


「俺の名は世界中に知れ渡る! 俺こそ偉大な存在! 素晴らしい存在! 真の未来の“最高の王”――俺はシノウ!」


…………


「こいつ……Link Parkと一緒に働いてる奴じゃないか。マジで、あのクソ野郎が助けに来たのか?」


続く……

42-42-564

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